2025年度中の日本導入がアナウンスされているスズキ初のBEV「eビターラ」。そのプロトタイプ試乗会が初夏の千葉県袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催されました。EVへの慎重な姿勢を隠さなかったスズキが、満を持して送り出したeビターラの出来栄えを編集長の馬弓が試します。
トヨタへのOEM供給も予定されるグローバルモデル
2024年11月にイタリア・ミラノで発表されたスズキ「eビターラ」は、同社初となるバッテリーEV(BEV)のコンパクトSUV。インドのグシャラート工場で生産され、欧州、インド、日本などワールドワイドでの販売を見込んでいます。さらにトヨタへのOEMモデルの供給もされるなど、期待に満ち溢れたグローバル戦略モデル。そんな巨大なプレッシャー(?)にもかかわらず、開発者が「1周遅れだからこそニーズに応えました」と仕上がりに胸を張るeビターラの実力やいかに!プロトタイプ試乗会で探ってみました。
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ちょっと幅広でかなりロングホイールベース
ビターラはエスクードの海外モデルに使用されてきた車名ですが、eビターラはガソリンエンジンの設定はなく「HEARTECT-e」と呼ぶ新開発BEV専用プラットフォームを採用したニューモデル。全長4,275mm、全幅1,800mm、全高1,640mm、ホイールベース2,700mm、最低地上高185mmというサイズは、全長こそトヨタヤリスクロス、日産キックス、マツダCX-3などに近いものの、幅の広さとホイールベースの長さ(2つ上のDセグメント並み)が特徴です。それでいながら最小回転半径が5.2mとBセグメントの中でも優秀なのはBEV専用プラットフォームのおかげ、とスズキの開発者は力説していました。
なかなかスタイリッシュな外観
EVの先進感とSUVの力強さを併せ持つとする外観は、実車を見ると確かに「その通り」だと思いました。基本的には直線基調のシャープなデザインですが、前後バンパーとボディ下部に配されたプロテクションとボリュームのあるフェンダーの存在感が非常に強く、グローバルモデルらしいバタ臭さを感じます。個人的にはなかなかスタイリッシュだと思います。
EVらしい先進感のあるインテリア
インテリアは先進感をより強調したデザインです。横広なディスプレイによるデジタルインパネ、フローティング式のセンターコンソール、そして異形ステアリングホイールなど、EVらしさを感じさせるアイテムが配されています。スペーシアカスタムやフロンクスで評判の良いワインレッドよりはブラウンに近いカラーとブラックをベースにシルバーの加飾をあしらったコーデも上質な印象を与えています。ちなみに欧州仕様はブラックの内装となるそうです。
ホイールベースがクラス標準より100mm前後も長く、リアシートにはリクライニングに加えて160mmのスライド機構が備わるなど、室内空間自体の実用性が非常に高いのもeビターラの美点。バッテリーの影響で少しだけ床が高いかなということが短時間の試乗の中で唯一気になったポイントでした。
2種類のバッテリーで400~500km以上の航続距離
写真:スズキ
eビターラには49kWhと61kWhの2タイプのバッテリーが用意され、2WD(FF)に加えて61kWh版には4WDの設定もあります。モーターの出力は49kWhタイプが106kW/193Nm、61kWhが128kWh/193Nmと異なります。さらに48kW のリアモーターを搭載する61kWhタイプの4WDは135kW/307Nmという合計出力/トルクを誇り、タフな使用にも耐えるようリアモーターも水冷式となっています。一充電走行距離(WLTCモード)は49kWhタイプが400km以上、61kWhの2WDが500km以上、4WDは450km以上を計画しているとアナウンスされています。
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圧倒的に4WDモデルがいい!
写真:スズキ
試乗会に用意されたのは61kWhの2WDと4WDでした。最初に乗ったのはBluE Nexus、アイシン、デンソーと共同開発したeアクスルを前後に搭載する4WDモデル。結論から書くと4WDモデルがeビターラのベストバイです。EVらしいシームレスで力強い加速もさることながら、アクセルやブレーキ、そしてステアリング操作に対する安定した車両挙動が非常に魅力的でした。
写真:スズキ
その走りを支えるのが4WDモデルに組み合わせられた「ALLGRIP-e」。悪路用のモード切り替えも付いているこのシステムは、定速時、加速時、減速時などの状況に応じ、前後の駆動力配分やブレーキを素早く自動でコントロールすることで、オンロードでもとても良い仕事をします。日産のe-4ORCEや三菱のS-AWCほどではないものの、前後モーター4WDの良さを十分実感させてくれました。
スムーズな加速性能は2WDでも十分味わえるが
写真:スズキ
続いて乗った2WDモデルはEV特有の低重心による安定性は感じるものの、サーキットの速いペースでは挙動変化がそれなりにあって、「普通のクルマ」レベルでした。もちろん2WDでもEVならではのスムーズで力強い加速は十分味わえます。純粋な加速性能は発進直後の0-40km/h加速こそ4WDの1.9秒に対して2WDは2.7秒と差をつけられているものの、0-100km/hでは4WD7.4秒に対して2WD8.7秒、中間加速でも60-100km/hは4WD4.2秒に対して2WD4.5秒と、スピードが乗るにつれその差は少なくなっています。街中での使用がメインであれば2WDで十分です。
とはいうものの山道を楽しみたい、一方で雪道は安心して走りたい、そんな贅沢な人(?)には、コントロールする楽しさと操縦安定性を高い次元で両立した4WDモデルが、繰り返しますがおすすめです。欧州には19インチ仕様もあるようですが国内向けはすべて225/55R18タイヤ、試乗した場所がサーキットゆえに乗り心地の良し悪しは判断しにくいのですが、低速でも意外と足が動く印象があり期待できそうな感じでした。
遅くなったから良かった!?
EVにはあまり積極的には見えなかったスズキですが、初めて投入したeビターラには「遅くなった」ゆえにEVのネガを消すための装備も盛りこまれています。寒冷地での性能ダウンがしばしば問題となるEVの弱点を補うために「寒冷時バッテリー昇温機能」「バッテリーウォーマー機能」などを搭載、暖房にも電力消費の少ない「ヒートポンプシステム」を採用しています。一方でEVの良さを十分に研究する時間もあったのでしょう。先進性と実用性を両立した内外装デザインや、前後モーターならではの4WDモデルの走りにそれが伺えます。
価格はまだ発表されていませんが、欧州の価格や関係者の話などを総合すると補助金90万円を見込んだ上で350万円〜450万円のレンジになるのではないかという印象を受けました。7月10日には公式ページで先行情報が公開されるなど、日本での発売も近づいてきた印象の強いeビターラ。その仕上がりはかなり良いと言えるでしょう。市場からの反応が楽しみな一台です。
(特記以外の写真:編集部)
※記事の内容は2025年7月時点の情報で制作しています。
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