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【新型ダイハツムーヴ】「これまでにないスタイリッシュで走りの良いスライドドア」〜開発者インタビュー(島崎七生人)

ダイハツムーヴ_開発者インタビュー
ダイハツムーヴ_開発者インタビュー

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第87回は20256月に10年ぶりのフルモデルチェンジを行ったダイハツ「ムーヴ」(1358500円〜2024000円)です。7代目にしてスライドドア付きに進化したダイハツの主力トールワゴンについて、ダイハツ工業株式会社 くるま開発本部 製品企画部 チーフエンジニアの戸倉 宏征(とくら・ひろゆき)さんと、主担当員の松山 幸弘(まつやま・ゆきひろ)さんに話を伺いました。

早く出して!というユーザーの声は本当に多かった

ムーヴXインパネ

NAエンジンのXのインパネ

ムーヴRSインパネ

ターボエンジンのRSのインパネ

島﨑:知らないフリをして伺うのですが、今回の新型ムーヴは、どのくらい前に完成していたのですか?

戸倉さん:いろいろとありましたが、2年前の時点で発売を延期したのは事実でした。その時点では形にはなっていたというところです。

島﨑:そこから、新型ムーヴのプロジェクトとしては何をされていたのですか?

戸倉さん:非常に難しい質問ですが、この2年、もちろんムーヴだけで会社が動いている訳ではないので、それより我々が起こした問題への対応を、すでに生産している車種を最優先に対応してきました。

ムーヴX フロントシート

Xのフロントシート

ムーヴRSフロントシート

RSのフロントシート

島﨑:考え方なのですが、新型ムーヴは発売が2年延びたということで、当初の計画に対して商品としての仕上げレベルにプラスαの何かが入れられたといったことは?

戸倉さん:結果論でいうと、量産品質の作り込みでは時間を使えたということはありました。

島﨑:ほうほう、それはたとえば“ここをこうした”といった具体例をお話いただくことはできますか?

戸倉さん:具体例は難しいのですが、当初の開発生産準備の期間で量産品質を確保するスケジュールを組んでやっております。それにプラスαの時間がありましたので、たとえばボディや組み付ける部品の建て付け、異音などで量産品質を上げていく時間は多少なりとも使えたかな、と。

島﨑:時間軸で捉えると、デザインは時間が経ってしまうことで、鮮度みたいなところに影響が出てきそうに思いますが?

戸倉さん:デザインに関しては、ダイハツに限らず他社さんもそうですが、ひとつのモデルライフが長くなっています。なので、たとえばこの2年で色褪せるといったことはまったく考えてなかった。いったん発売延期はしたものの、デザイン、商品力は十分にお客様に受け入れられるものと思っていました。

島﨑:ムーヴは幅広く受け入れられてきたメイクですし、ユーザーからの声はやはりたくさんありましたか?

戸倉さん:早く出して!のお声は本当に多かったですね。

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ちょうどいい高さの軽自動車でスタイリッシュなクルマを!

ムーヴサイドビュー

島﨑:で、新型での売りというと?

戸倉さん:軽自動車初、ダイハツ初といった話題喚起する新技術はありませんが、30年の歴史のあるムーヴでスライドドアに踏み切ったところは大きな変化点だと思います。これはお客様のニーズ、市場動向を踏まえての判断であり、一定の需要はあるアピールポイントです。

島﨑:あ、そうでしたね。

戸倉さん:さらに言えば、これまでにないスタイリッシュな軽のスライドドア車を作ろうという思いもありました。ご存知のとおり今、世の中にあるスライドドア車は箱形が多い。当社で言えばタントなどがそうです。そうではなくて、ちょうどいい高さの軽自動車でしっかりとスタイリッシュなクルマにしようと。もうひとつ、ムーヴに乗り継がれてきたお客様から「ムーヴは走りがいいよね」というお声もいただいています。そこも今回、具現化しまして、我々は売りのひとつだと考えています。

島﨑:走りに関して、今回の新型では何か作り方を変えたりしたのですか?

戸倉さん:2019年のタントから新しいアーキテクチャーのDNGAをやっています。その時には軽の一括企画として、目標性能を含めすべて考えました。そこから競合車の動向を見てアジャストなどしつつ、技術も積み上げて、それらをフィードバックして、今回の新型ムーヴに折り込みました。

2年前から“MOVE ON”で決めていた

MOVE ON スペシャルサイト

80年代をイメージさせる永井 博さんのイラストは特設サイトでCMとともに見ることができる( https://www.daihatsu.co.jp/lineup/move/special/

島﨑:まったく話は飛びますが、永井 博さんのイラストにヤマタツ(註・山下達郎)のCMは拝見した瞬間にバッチリとササりましたが、これは狙いですか?

戸倉さん:あはは、狙いです。そこはそういう世代の方々に1番に響く直球ストレートでやりました。

(ここからくるま開発本部 製品企画部 主担当員の松山 幸弘(まつやま・ゆきひろ)さんに交代)

島﨑:ちなみにあのCM2年前にあったプランだったのですか?

松山さん:いえ、今回、発売時期に合わせて、再度、新型ムーヴに対してこの打ち出しでと考えました。

島﨑:MOVE ON”のコピーは?

松山さん:コピー自体は2年前から考えていました。

島﨑:あ、深読みするまでもなく、純粋にムーヴがスライドドアに変わった、進化したというアピールという訳ですね。

松山さん:前から考えていたMOVE ONを使って、CMはこの形の表現にしましょうというのが決まったのは最近です。

島﨑:子離れ世代というと、僕も世代だけでいえばそうなので、そう来たかぁ、山下達郎や大瀧詠一をまた聴きたくなるなぁと思いました。それにしても、当初の予定から2年経っての発売というと開発関係者の皆さんのご苦労もいろいろおありだったのだろうなぁと想像する訳ですけれど……

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開発チームのメンバーは絞られたが……

ムーヴXのリアシート

Xのリアシート

ムーヴRSのリアシート

RSのリアシート

松山さん:2年という月日の間、関係者はずっと離れていた訳ではなく、ちょっとずつでもやる方向で接してきました。開発メンバーも思いを持ってきたことなので、出せたことは工場を含めメンバー全員、喜んでいます。

島﨑:では2年の間、ムーヴのことは置いておいて……ではなく?

松山さん:メンバーが絞られてガッツリできないながらも、各部署で何人かずつはずっといて、その間に会話をしながら、持っていた空気はここまででき上がったものを出したかった。戸倉本人などは、どうしても出したいと頑張っていた張本人でしたけれど。

広報:問題があったクルマに対して安全確認のフェーズがあって、それを踏まえて、安全だという確認ができて、再び間違いが起こらないよう正しい手続きができる再発防止の形があり、それに基づいてクルマが作れるようになり大きくプロジェクトが動き出す。会社としてはそういう取り組みの中で少しずつ動かせるようになりました。ダイハツとしてはどの部署も含めて、安全だよねと確認するフェーズが暫くあったということでした。

島﨑:思わず涙腺がゆるみそうになるお話ですが、その間に完成車に対しての試験基準を厳しくしたといったことはあるのですか?

松山さん:その意味でいうと、2年前と今でクルマの基本は変わっていません。なので、この断面で出させていただいた新型ムーヴも、十分に鮮度はあります。企画の立場からいうと、2年前だったらより鮮度が高かったのかなぁ……とは思っていますが。

島﨑:USBAタイプだったりする、そういうことぐらいですよね?

松山さん:ええ、基本コンポーネントの実力はありますので、他社さんとも十分に勝負できるのかなあと考えています。

島﨑:今回発売されたクルマのスペックそのものは?

松山さん:同じです。2年前には出来ていました。ご迷惑、ご不安を与えるようなことがあっただけに、再度やり始めてからは、出荷するクルマについて高い安全性を持って乗っていただけるよう、工場も含めて作り込みをやってきました。

島﨑:先ほど戸倉さんにも伺いましたが、たとえばデザインなどは時間経過で価値観が変わったりするものだと思いますが、そうした部分の手直しなどは?

松山さん:なかったですね。ボディカラーにしても、当初掲げていたターゲットユーザーに対して、この色でいけるよねと、もともと用意していた色バリエーションです。

広報:軽のラインアップのど真ん中にある商品なので、バランスもとれて、王道でもあるところなので。

松山さん:嗜好の部分で好みが変わる派生車とは違い、ムーヴは真ん中を狙ったクルマなので、走る/曲がる/止まるとか乗り味の部分とかの価値の部分はあまり動かない。そこを狙ったクルマだったこともよかったのかな、と。

今までのムーヴに乗っていた方にも納得してもらえる加速

ムーヴのメーター

島﨑:その中でスライドドアを採用した……。

松山さん:昔の乗用車はスイングドアでしたが、今はクルマ全体を見たときに1ボックスカーが普通になってきた。そうなると、求められるのはスライドドアになる。そこで今回はスライドドアでも操安も乗り心地もいけるクルマがいいのかなあ、と。

島﨑:スライドドアは年齢を問わずニーズがあるとお考えでしょうか?

松山さん:今はタクシーもスライドドアですが、使ったことがある方は利便性が高く、楽だということを知っておられる。弊社でも2年半前にキャンバスを出したときに、このサイズのスライドドアはいいよねという声もいただいた。なので、スライドドアのニーズはやはりあると考えました。

島﨑:ライバル車は想定されていますか?

松山さん:うーん、というよりも今、従来のムーヴに乗っておられる方に「よくなったよね」と乗り換えていただくクルマ。スライドドアにすることで車重が重くなり、出足が遅くなったり動きが鈍くなったりもする。そこは今までのムーヴに乗っておられる方にも納得していただけるように、たとえばギヤ比を落とすなどした。実は戸倉も現ユーザーである関係で(笑)、そのあたりはかなり厳しく見ています。

15インチのRSKYB製ダンパーを採用

ムーヴRSフロント

15インチタイヤを履くRSのダンパーはKYB製

島﨑:足回りは全車共通ですか?

松山さん:14インチはキャンバスの足回りをベースにチューニングしています。15インチになるRSは、硬さが出てきますので専用のショックアブソーバーで硬さを取って、長距離も乗れて乗り心地がよく、操安とのバランスもとったものにしています。

島﨑:試乗してみると、15インチの安定感のよさを実感しました。いっそ全車この仕様でもいいのでは?と思いますが、やはりコスト面など、そういう訳にいかないのですか?

松山さん:そうやって言っていただけると、14インチにも検討しようという話が出てくるかもわかりませんけれど……100数十kmの日帰りや一泊のドライブに出かける時に疲れず、ステアリングどおりに曲がってくれるクルマということにはこだわり、14インチでもそれは出来ていると思っています。15インチは初期のダンピングをシッカリと効かせられるHLSバルブを使ったKYBの専用アブソーバーを入れたので、質感の部分で上がっているのではなかろうかと思っています。

島﨑:欧州の実用コンパクトカーは、誰が乗っても安心して運転できますよね。やはりクルマらしさとはそういうところにあるのかなと思います。15インチのRSはそんなイメージに思いました。

松山さん:先ほど離席しました戸倉が聞いたら泣いて喜ぶと思います(笑)。

ムーヴのシートヒーター

島﨑:そうそう、HDMIソケットのフタの文字が何故か縦になっているのと、シートヒーターの設定があるのは非常に嬉しいのですが、スイッチはコンソールの下のほうにあって、小さい字が見えづらい年頃には少々小さいかなと。

松山さん:そのへんはやりきれてないかもしれません。どうしても共通化して限られたスペースに入れているものですから、アイコンの大きさを含めて、そういったご指摘の部分は今後考えていくようにいたします。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2025年6月時点の情報で制作しています。

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