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【マツダCX-80】「マツダの味は残しつつ裾野を広げた」〜開発者インタビュー・走り編

【マツダCX-80】「マツダの味は残しつつ裾野を広げた」〜開発者インタビュー・走り編
【マツダCX-80】「マツダの味は残しつつ裾野を広げた」〜開発者インタビュー・走り編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第85回は前回に続いてマツダ「CX-80」(394万3500円〜712万2500円)です。スマッシュヒットとなったCX-8後継となる3列シートSUVの乗り心地・操縦安定性などの走行性能について、車両開発本部 操安性能開発部 部長の下﨑 達也(しもさき・たつや)さんに話を伺いました。

パワトレ一筋がシャシー部門に異動した理由

パワトレ一筋がシャシー部門に異動した理由

島崎:あ、下﨑さんの“﨑”の字も旁(つくり)が“大”ではなく“立”なんですね。実は僕も正式にはそうなんです。

下﨑さん:そうなんです。“大”が一般的ですよね。

島崎:大昔のワープロでは作字していましたよね。ですから載せてもらう署名記事などでコチラから贅沢を言うのもなぁ……と“大”のままの場合が今も多いです。(編集部註:カルモマガジンでは以前、島崎さんに確認したところ“どっちでも良いです”と言われたので大を使用しています!)

下﨑さん:今はまったく普通に変換されますけどね。まあ公的文書でなければ“大”でもいいんですけどね。

島崎:仰るとおりです……と“大”か“立”かの話はこれくらいにしまして、下﨑さんはずっと今の領域のご担当だったんですか?

下﨑さん:それがですね、今の担当は5年目ですが、その前の10数年は、ずっとひたすらパワートレインでした。今のマツダ3以降のエンジンはすべてやり、SKYACTIV-Xまで出してから、今の操安、シャシーの領域に来ました。

島崎:そういうご異動はよくあるのですか?

下﨑さん:いえ、ないです(笑)。

広報:優秀なメンバーなので、隣りの部門も勉強してもらう、将来を見据えた人事異動だと聞いています。

下﨑さん:まあパワートレインとシャシーは融合してきていまして、とくに制御領域なんですけど、4輪駆動システムそのものでいえばパワートレインですが、何を変えているか?というとクルマのダイナミクスそのものを変えていることになり、トラクションだけではなく運動性能そのものが変わる。弊社でいうとGVC(=G-ベクタリング コントロール:ドライバーのハンドル操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させることで、これまで別々に制御されていた横方向と前後方向の加速度(G)を統合的にコントロールし、4輪への接地荷重を最適化してスムーズで効率的な車両挙動を実現する世界初の制御技術)などもそうですが、パワートレインとシャシーの連携も多くなってきた。なので、お前、やってこい、と。

島崎:今は制御も繋がっているということですね。そのお立場で、CX-80の開発で1番力を入れたところはどこですか?

CX-60はトガり過ぎていた

CX-60はトガり過ぎていた

 

下﨑さん:CX-60の時にはいろいろとご迷惑をおかけしたというか……。

島崎:蒸し返すつもりはなく、あくまで確認なのですが、言われていたことはやはりそうだったんですか?

下﨑さん:いろいろなご指摘は間違っていない。要は我々の狙いがトガり過ぎていた……そんなイメージです。

島崎:といいますと?

下﨑さん:すごくピンポイントなところの良さを追求したのが60でした。たとえばリアサスペンションを相当固めたものを使っていて、ピロボールなども使っていますから、応答は早くていいのですが、乗り心地はやはりシビアになる。

CX-60はトガり過ぎていた

広報:販売の現場では3割の人は「このクルマ最高」と言われましたが7割の人は「いいのはわかるけど乗り心地が悪いよ」というのがありました。

島崎:僕は3割のほうだったのかぁ……。下﨑さんの受け止めはいかがでしたか? 今さらマツダからの反論を伺う訳ではないですけど。

下﨑さん:反論するつもりはないですけど、やはり狙っているところがピンポイントだった。なのでハマる人にはすごくハマる。ハマらない人でも、たとえばきれいな路面のワインディングを走っていると「すごくダイレクト感があっていいよ、でも市街地のこの乗り心地はどうかね?」だった。

島崎:それはどういうタイプの人がそう言ってたのですか?

下﨑さん:ジャーナリストの方の中にも「60はいいよ、乗り心地なんてぜんぜん気にならない」という方はいらっしゃいました。

広報:CX-60ですが、初期のモデルからランニングチェンジをしていまして (編集部註:2024年12月9日、CX-60のさらなる商品改良が発表されました。発売予定は2025年2月21日とのこと)。

下﨑さん:リアのダンパーだけ少し減衰を上げたものが入っています。

島崎:それはどういう効果になっていますか?

下﨑さん:基本は乗り心地の改善がメインで、突き上げについて、突き上げが気になるとずっと気になるという話がありました。ガツンガツンと来るという話と高速で揺れが止まらないという大きく2点。そのうちの揺れに関しては減衰を高めれば収められる。ランニングチェンジでは、そこを集中的にやらせていただきました。

島崎:当然CX-60の最初のセッティングも、当然、よしとされて出てきた訳ですよね?

下﨑さん:そうですね。限られたシーンを見て、ステアリングをゆっくり切った時の応答、ワインディングでスースーッと切った時の応答であったりと、その時のダイレクトな手応え、地をちゃんと掴んでいるというところから操舵力も少し重めにセッティングしていましたから、そういう視点で見れば、そこは非常に良い、と。だからこだわりのポイントとしてそこはそのまま出した、ということでした。山で言うと頂点を磨きに磨いて、裾野の万人のところまで見られていなかったということだったと思います。

島崎:CX-80ではそのあたりを踏まえてということですか?

下﨑さん:そうですね。

どんな道を走っても快適でありつつ、運転する楽しさはキープ

どんな道を走っても快適でありつつ、運転する楽しさはキープ

島崎:車重もボディサイズも違いますが、CX-80ではどういう考えのセッティングということになりますか?

下﨑さん:基本的にマツダがこだわっているちょっとトガらせたところは守っていきたい。ですがあまりにもトガっているから、そこはちょっと下げましょう、と。誰が乗っても運転する楽しさはキープしたい、でも裾野の部分の、どんな道を走っても快適でありつつ、トガらせた部分はマツダの味として残す……そういう形でやっています。

島崎:トガらせたところをドーンと抑えた訳ではない?

下﨑さん:そう、上は残しています。

島崎:裾野のところはそんなイメージですか?

下﨑さん:やはり市街地によくあるゴツゴツした路面、工事の跡とかで必ずしもフラットではないアスファルトの路面など、そういうところを走っても不快にならない乗り心地を実現しよう。そういう快適性を担保しながら、一方でワインディングを走るとこんな大きなクルマなのに小さいクルマに感じるよね、そんな操安フィールを……。

どんな道を走っても快適でありつつ、運転する楽しさはキープ

島崎:あの、この写真は開発責任者の柴田さんにもお見せしたのですが、ウチの犬がCX-80のサードシートに試乗しているところをiPhoneのインカメラで撮ったところなんですが、これは静止画ですが、本当に頭が揺れていないんですよね。通常、犬は揺れれば成すがままのところですが、本当に平然としていて。運転席とのピッチングが逆位相になっている風でもなくて。

下﨑さん:ああ、横揺れしにくいですし、基本はバウンズ基調にするようにしています。クルマってさすがに何かを乗り越えた瞬間は前が持ち上げられるので、それはバネとのバランスで決まるのですが、その後のバウンズをどう整えて揃えていくか。

島崎:ほうほう。

どんな道を走っても快適でありつつ、運転する楽しさはキープ

どんな道を走っても快適でありつつ、運転する楽しさはキープ

下﨑さん:60はリアのバネが非常に硬かったので、リアの揺れが目立ってしまった。そこが弱点としてあったことでした。そこで最新のクルマでは減衰を上げて後ろのハネをすぐに収める、リア側の揺れを早く収める。そうすることでバウンズの動きが出しやすくなる。80は最初からリヤ側のバネを落としてダンパーの減衰は上げることで、よりバウンズ基調にしています。

島崎:CX-80のようなSUVでは、ボディの大きさや車重を担保するためのシャシー設定が必要でしょうから、そうすると乗り心地には不利に働きそうですね。タイヤも大径ですし。

下﨑さん:それはありますね。タイヤのついてはバネ下の重量がかなり効きますから。ですが、重いので運動性能を出すにはどうしてもタイヤにパワーが必要になる。それなりの幅がないとクルマが曲がらないんですね。さらに最近は燃費もあり本来はころがり抵抗がいいほうがいいですが、乗り心地、操縦安定性もあり、非常に苦しい戦いをしています。

操舵した時にクルマが遅れなく動く感覚を作りたい

操舵した時にクルマが遅れなく動く感覚を作りたい

島崎:エンジン性能が必要最小限のコンパクトカーで、タイヤを冬用の14インチから夏の15インチに替えると、途端に動き出した瞬間に重たいタイヤ自体を力づくで回している感がありますよね。

下﨑さん:まあスタッドレスタイヤではハンドルを切ると、ちょっと遅れてクルマが反応します。

島崎:そういうのはマツダ車では嫌なことなんですね?

下﨑さん:嫌です。なので操舵した時にクルマが遅れなく動く感覚を作りたい。その時にGVCなどを使いながら、クルマの姿勢もバネ上も上手くきれいにロールしながらといったことを、制御とサスペンションとタイヤの力を総合的に考えてセッティングする。それを突き詰めたのが初期のCX-60だったんです。

広報:今回のCX-80は世界同時に4車種に最新技術をちりばめたクルマの1台ですから、そこはもう……。

下﨑さん:サスペンションもかなり新しいところをいろいろ入れているんですよ。たとえばフロントのキャスターを立てているのは60と変わらないですが、60の時はハンドルが戻らないといわれまして。

島崎:ハイキャスターだったW124のメルセデス・ベンツなど、高速直進安定性が凄くて、切ったあとに自分で戻る自然さ、安心感があったのを今でも良く覚えています。

下﨑さん:欧州車らしく真ん中に向かうタイヤの復元力を高める、アウトバーンでは重要な性能のひとつですしね。ただハンドルを切っただけでクルマがロールもするので、本当は切ったら自然にクルマの向きを変えたいところを姿勢も変わってしまう。それは違和感ですよねということもありますが、キャスターをゼロにすればクルマの動きは変わらずにヨー運動で動きますとなりますが、直進安定性の面では自分で安定させなければならなかったり、ハンドルも戻らない。ハンドルをジワッと切った時のある気持ちよさを追求したのが60で、リアを固めて、フロントはダイレクトな反応がある手応えと、ハンドルを切った時にフロントタイヤが遅れなく、変な動きを出さずに素直にタイヤの動きをクルマに伝える。クルマがヨー運動を始めた時にリヤタイヤがしっかり応答して横力を出すようにがっちり固めて、大きく重たいクルマですが、切ったときには小さいクルマを扱っているような感覚……そこを徹底的に追求したんです。

島崎:けれど市場の反応は違った……。

下﨑さん:そうですね。その裏側にある乗り心地、ハンドルが戻らない、ハンドルを切った時のバネ上のダイヤゴナルロールを作るために減衰を弱めにして動きやすくわかりやすくしているとか、そういうことが乗り心地とは反対の性能として現れたというところですね。

ビリビリ、ザラザラが少ないのはPHEVモデル

ビリビリ、ザラザラが少ないのはPHEVモデル

島崎:FRプラットフォームはロードスターやRX-8を除けば久しぶりですが、そのあたりの事情、背景、影響はあったのですか?

下﨑さん:あまりそれはなかったですけどねえ。こだわるポイントが領域として狭かったということだったと思います。

島崎:ほかでもない、ロードスターはずっとありますが、車重、カテゴリーがぜんぜん違いますからね。

下﨑さん:その意味ではPHEVは苦労しましたね。重たいのと50:50になっているので。

ビリビリ、ザラザラが少ないのはPHEVモデル

島崎:でも先日、PHEVとディーゼルマイルドハイブリッドを数日間ずつお借りできたのですが、僕はPHEVの音・振の小さいなめらかな走りとクルマ全体から伝わる上質感、静粛性、快適性などよかったと感じました。また60の時のように“3割の人”なのかな。販売も日本は圧倒的にディーゼルだそうですし……。

下﨑さん:先日行われた試乗会では、ディーゼルが好きな人の方が多かったように思います。

島崎:お借りした試乗車の印象では、PHEVのほうがボディの揺れ方が自然でザワザワ感がなくなめらかに感じまして、そこがよかったです。

下﨑さん:PHEVはそもそもバッテリーが重たいので重心高が低く、一般的な重みの話からバネ上が揺れにくく、バッテリーが剛性部材にもなっていてPHEVのほうが車体剛性は高いんです。なので高周波領域の振動はPHEVのほうが低いんです。数字でいうと20Hzから上のビリビリ、ザラザラといったところですね。でもそこの話をしたのは島崎さんが初めてです。だいたい低周波のグツゴツ、ガツンガツンのところは目立つのでよく話しますけど……。

島崎:でもその差は、走り出したところから実感した気がします。下﨑さんの言葉を信じてこれからは生きていっていいんですね(笑)。

下﨑さん:いわゆるガッチリしたところではPHEVのほうが有利です。物理的に間違いないですし、データ的にも間違いないです。高周波領域が低いのは60も80も同じです。

島崎:間違いない、ですね。

下﨑さん:PHEVがいいと言うお客様は、クルマが重たくて揺れにくく、高周波領域の振動を敏感に感じやすい人。そういう人は乗り心地の観点でいえばPHEVがいいということだと思います。

長距離旅行メインならディーゼルの燃費の良さも光る

長距離旅行メインならディーゼルの燃費の良さも光る

島崎:充電をしながらできるだけ電気で走れば、電気代はありますが燃費はいいですしね。

下﨑さん:電池で走れば、その分のガソリンの燃費は0km/Lですから。

島崎:ディーゼルのほうも……走行距離は100km未満でしたが、返却時の軽油の給油量がから計算してちょうど20.0km/Lくらい走っていました。

下﨑さん:PHEVは完全に電池がゼロになると通常のHEVと一緒で車重もありますから、長距離で300km、400km走って旅行に行きますという方は、ディーゼルのほうが断然、燃費はいいです。

島崎:日々、引き受けた原稿をせっせと書いて過ごしていながら、なかなか旅行に行く余裕などできないのですが、PHEVの快適性もですが、ディーゼルの燃費の良さもプライベートで実感できる日が来るのを夢見ていたいと思います。どうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2024年12月時点の情報で制作しています。

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