ホンダの世界戦略を支えるセダン、アコードが10代目へと切り替わった。北米や中国での好調な売れ行きを反映して、いまや全長4.9mの大柄なボディを持つに至った新型アコードだが、果たして日本での使い勝手はどうなのだろう。岡崎五朗さんの試乗レポートをお届けしよう。
日本では影が薄いものの
10代目となる新型アコードは、シビック、CR-Vとともにホンダの世界戦略の柱となるモデルだ。日本では影が薄いものの、中国ではカムリやパサートを凌いでセグメントのベストセラー。北米でも月間2万台を超えるセールスを記録している。まあ逆に言えば、北米と中国をメインマーケットに据えた分、日本人の嗜好とは離れてしまっている可能性もあるわけで…。そのあたりを含め、早速実車を見ていくことにしよう。
全長4.9mも北米や中国では標準的なサイズ
全長4,900㎜×全幅1,860㎜×全高1,450㎜というボディサイズは先代レジェンドとほぼ同じ。トヨタのカムリと比べても全長で15㎜、全幅で20㎜プラス。かなり大柄だ。しかしこれが、北米や中国のユーザーがこのクラスのセダンに求めているサイズ感のど真ん中なのだ。じゃあ日本でどうかと言えば、気軽にサッと飛び乗って気軽にスッと停めてというわけにはいかないのも事実。もっとも、ホンダとしてはそういうセダンをお求めならインサイトをどうぞということなのだろう。
グレードは1つのみ、月販目標は300台の「看板」モデル
大きさ以上に日本での戦いをきびしくさせているのがセダン離れだ。クラウンとプリウスは踏ん張っているものの、他の国産セダンはどれもパッとしない。しかしそこはホンダも十二分に理解していて、月間販売目標台数をわずか300台に設定している。たったの300台のために広告をつくり、カタログを刷り、整備解説書をつくり、船で運び(製造はタイ工場)、販売店に並べ、パーツを用意していたら利益などほとんど出ないはず。1グレードのみに絞ったのも販売台数が少ないからだ。それでもホンダがアコードを日本に持ってきたのは、40年以上の歴史をもつ看板モデルの火を自国マーケットで消したくなかったからだろう。
大柄なボディを活かした優雅な大人のセダン
デザインは大柄なボディを活かした優雅さが持ち味。ルーフラインに丸みをもたせ、そのまま後方へとスムースに落とし込んでいく手法はファストバック、あるいはクーペ的と言える。インテリアはスイッチの数を減らしたシンプルな構成だが、上質な素材やステッチの繊細な仕上げ、随所に入ったアルミのアクセントなどによってプレミアム感を演出している。ベストセラーカーだけに冒険はしていないものの、大人のセダンとしてはなかなか好感のもてる雰囲気だ。
モーターが主役のハイブリッドはとにかく静か
走りでもっとも印象的だったのは静粛性の高さ。2Lエンジンが発電した電力でモーターを回して走るため、通常走行ならエンジン音はほとんど聞こえてこない。一定速巡航時はエンジン直結になるものの、100km/h程度ならエンジンはゆるゆる回っているだけだからその存在感はほとんどない。加えて、ノイズキャンセリングシステムや特殊なホイールによって、高級車並みと呼ぶのに相応しい静粛性を実現している。急加速時や登坂時にはたくさんの電力を生みだすべくエンジン回転数が高まるが、それでも騒々しなと感じることはなかった。
急加速時のタイムラグが少々惜しい
アクセル操作に即応するレスポンスのよさもモーターの魅力だ。実際、アクセルをスッと踏み込むと間髪入れずに大柄なボディがスッと押し出される。これはとても気持ちがいい。ただしガバッと踏み込むとエンジンが回って発電量を増やしてそれから加速、という流れになるのが惜しい。小さいながらもバッテリーを搭載しているのだから、ドライバーが急加速を望んだ際にはバッテリーから大量の電力を一気に放出して間髪入れずに鋭い加速を演じて欲しいところだ。
セダンに興味があるならぜひ!
足回りはこのクラスの世界的な傾向である引き締まった味付け。ペースを上げでワインディングロードを走っても大きさを感じさせない軽快感を示す。その一方で、日本仕様のみに用意されたコンフォートモードを選べば快適性も上々。フワフワ感はないものの、ガチッとしたボディによって不快な振動を抑え込んだ上質な乗り味を楽しめる。
価格は465万円。一見高めに見えるが、装備はかなり充実している。コストパフォーマンスはカムリの最上級グレードとほぼ同等と考えればいいだろう。月間300台という希少価値を含め、セダンに興味があるなら注目に値するモデルだ。
※記事の内容は2020年5月時点の情報で制作しています。