コンパクトミニバン市場で人気を二分するトヨタ「シエンタ」(199万5200〜323万4600円)とホンダ「フリード」(250万8000〜343万7500円)。2022年8月に新型となったシエンタに対して、ライバルのフリードも2024年6月にフルモデルチェンジを行い3代目へと進化しました。2024年上半期販売ランキングで3位と絶好調のシエンタですが、フリードも7月販売台数6位につけ反撃の狼煙が上がりました。同じサイズの3列シート+スライドドアモデルながら、デザインテイストが大きく異なるこの2台、果たしてどちらが買いなのか?自動車評論家の萩原文博さんの試乗レポートをお届けします。
シエンタとフリードが牽引するミニバン人気
一般社団法人「日本自動車販売連合会」が発表した2024年7月の新車販売台数におけるトップ10のボディタイプを見ると、第1位はトヨタカローラ、第2位はトヨタヤリス、そして3位にトヨタシエンタが入っています。しかし、カローラはセダン、ハッチバック、SUV、ステーションワゴン、ヤリスもハッチバック、SUVと複数のボディタイプの合算です。そう考えると単一ボディタイプのシエンタの3位はなかなかスゴイこと。それ以外にもフリード、アルファード、セレナ、ノアと、TOP10にミニバンは5台もランクイン。ちなみにノアとヴォクシーを合算すれば1位のカローラに肉薄する台数となります。相変わらずミニバンは人気カテゴリーです。
人気のミニバンで最も販売台数が多いのが、1万1441台のトヨタシエンタと第2位が8442台のホンダフリードとなり、いわゆるコンパクトミニバンが上位を占めています。ボディサイズの大きさによって3つに分けることのできる国産ミニバン、ラージ&ミディアムクラスではトヨタが圧倒していますが、先ほどの数字を見てもおわかりのように、コンパクトクラスではシエンタとフリードがしのぎを削っています。今回は人気伯仲の国産コンパクトミニバン、トヨタシエンタとホンダフリードを比較してみました。
登場から2年経過したシエンタは一部改良実施
3代目となる現行型のトヨタシエンタは2022年8月に登場し、2024年5月に一部改良を行っています。今回の一部改良では各グレードの装備の拡充を行いました。最上級グレードのZでは10.5インチディスプレイオーディオ(コネクティッドナビ対応)プラスやパノラミックビューモニターの標準化、そしてデジタルキーや外部給電アタッチメントをオプション設定しました。
現行型シエンタはTNGA(GA-B)プラットフォームをベースにシエンタ用に新設計。さらに、主要な骨格を連結させた環状骨格構造を採用することにより、結合部の剛性を向上しています。また車両主要骨格に採用されている構造用接着剤、およびルーフパネエルに採用されているマスチックシーラーの一部を高減衰タイプとすることで、操縦性、乗り心地、静粛性を向上させたのが特徴です。
抜群の燃費と最新の運転支援を誇るシエンタ
搭載されているパワートレインは最高出力120ps、最大トルク145Nmを発生する1.5L直列3気筒ダイナミックフォースエンジン+ダイレクトシフトCVTと、1.5Lエンジン+モーターのハイブリッドシステム搭載車の2種類。駆動方式は2WD(FF)を中心にE-Fourと呼ばれる電気式4WDをハイブリッド車に設定しています。旧型の4WDはガソリン車のみでしたが、現行型シエンタではハイブリッド車のみ4WDが設定となりました。燃費性能はWLTCモードでガソリン車が18.3~18.4km/L。ハイブリッド車は25.3~28.8km/Lを実現しています。
運転支援システムは衝突被害軽減ブレーキのプリクラッシュセーフティに車両、歩行者、自転車運転車、さらに自動二輪車(昼)を検知範囲に加えて、事故割合が高い交差点でも支援するタイプを採用。運転の状況に応じたリスクを先読みして、ドライバーのステアリングやブレーキ操作をサポートするプロアクティブドライビングアシストも採用した最新の予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」を全車に標準装備しています。また、縦列駐車や車庫入れ時のアクセル、ブレーキ、ハンドル操作、シフトチェンジの全操作を車両が支援する高度運転支援技術「トヨタチームメイト」の機能「アドバンストパーク」の設定もあります。クルマに搭載した通信機によってソフトウェアアップデートや充実したT-Connectサービスなどコネクティッド機能も充実しています。
シエンタのグレード構成はガソリン車、ハイブリッド車ともに、上からZ、G、Xの3種類。駆動方式はガソリン車が2WDのみで、ハイブリッド車は2WDと4WDを設定。乗車定員は、ガソリン車、ハイブリッド車ともに5人乗り、7人乗りを選ぶことができます。車両本体価格はガソリン車がX 2WD 5人乗りの199万5200円~Z 2WD7人乗りの268万6600円。ハイブリッド車はハイブリッドX 2WD5人乗りの239万円~ハイブリッドZ 4WDの323万4600円となっています。
フリードはシンプルなエアーとSUVテイストのクロスターの2本立て
対する現行型フリードは2024年6月にフルモデルチェンジを行ったばかりです。先代モデルは3列シート仕様のフリードと2列シート仕様のフリードプラスという設定で、途中からSUVテイストのクロスターが追加されました。現行型では、シンプルテイストのフリードエアとSUVテイストのクロスターという2本立てに改めています。
現行型フリードは内外装の異なるエア、クロスターという2つのモデル体系を設定。6人乗りの3列仕様シートを中心に、エアのみ3列シート7人乗りが、クロスターのみ2列シート5人乗り仕様が設定されています。クロスター5人乗り仕様は、先代のフリードプラス譲りのロングリアゲートによって荷室の開口高が極めて低く、使い勝手の高さが魅力です。
モーター主体の最新ハイブリッド、先進運転支援とコネクティッドも万全のフリード
搭載しているパワートレインは最高出力118ps、最大トルク142Nmを発生する1.5L直列4気筒DOHC i-VTECエンジンと、最高出力106ps、最大トルク127Nmを発生する1.5Lガソリンエンジンに充電・駆動を行う2つのモーターを組み合わせた「e:HEV」と呼ばれるハイブリッドシステムの2種類。駆動方式はスロープを除く全グレードで2WDと4WDを選ぶことができます。燃費性能はWLTCモードで、ガソリン車が14.4~16.5km/L。ハイブリッド車が21.1~25.6km/Lです。
運転支援システムは、ホンダ独自の運転支援システムである「ホンダセンシング」を標準装備。衝突軽減ブレーキ(CMBS)をはじめとした15の機能でドライバーをサポート。またオプション装備として、後退車庫サポート、アダプティブドライビングビームを設定しています。
コネクティッド機能は車載通信モジュール「ホンダコネクト」を搭載。これにタイプするナビとオーディオをディーラーオプションで設定。ボタン1つでオペレーターが対応する「緊急サポートセンター」をはじめ、車内Wi-Fiなど「ホンダトータルケアプレミアム」が提供するサービスを利用可能です。
フリードのグレード構成はエアがエアとエアEXの2種類。クロスターはモノグレードです。車両本体価格は、ガソリン車がエア2WD6人乗りの250万8000円~クロスター4WD 6人乗りの308万7700円。ハイブリッド車はエアe:HEV2WD6人乗りの285万7800円~e:HEVクロスター4WD6人乗りの343万7500円となっています。
ぱっと見は割安に感じるシエンタ、しかし装備内容を比べると差は少ない【価格対決】
そんな現行型シエンタとフリードを全方位で比較してみましょう。まずは価格です。シエンタの車両本体価格は、199万5200円~323万4600円。対して、フリードは250万8000円~343万7500円とエントリーグレードでは約50万円、最上級グレードでも約20万円高くなっています。
しかし、ハイブリッドの売れ筋グレードで比較すると、シエンタハイブリッドZ 2WD 7人乗りが303万6600円。対してフリードe:HEV エア EX 2WD 7人乗りは309万1000円とその差は約6万円とグンと縮まっています。全体で見るとかなりフリードが高く見えますが、売れ筋グレードでは、その差はかなり小さくなっています。またシエンタはZ以外のグレードの標準装備がやや見劣りする点に注意が必要です。
シエンタは4~5ヶ月、フリードは最上級グレードの納期が1年待ち【納期対決】
続いて新車の納車期間です。シエンタの納期はガソリン車が5カ月程度、ハイブリッド車は4カ月程度です。対してフリードの納期は最も短いガソリン車のクロスターが4カ月程度ですが、ハイブリッド車のe:HEVエアEXは約1年と長期になっています。納期という点では、シエンタのほうがかなり有利となっています。
好評のコンパクトさは両車ともキープ、小回り性能はわずかにシエンタの勝ち【車体サイズ対決】
ボディサイズは、シエンタは全長4,265(一部4,295)mm×全幅1,695mm×全高1,710(4WDは1,735)mm。対してフリードは全長4,310mm×全幅1,695mm(クロスターは1,720mm)×全高1,755mm。
シエンタとフリードエアーは5ナンバーサイズですが、フリードクロスターはホイールアーチプロテクターを装着したことで、全幅は25mm広くなり1,720mmの3ナンバーとなります。最小回転半径はシエンタが改良され5.0m、フリードは旧型と同じくクロスターも含めて5.2mとシエンタがやや有利です。
加速と静粛性ならフリード、燃費を優先するならシエンタ【走行性能対決】
搭載しているパワートレインは、1.5Lエンジンと1.5Lエンジンのハイブリッドの2種類という点は同じです。しかしシエンタが3気筒エンジンに対してフリードは4気筒エンジンと気筒数が異なります。フリードは4気筒エンジンということに加えてモーターが主体のハイブリッドのおかげで、スムーズな加速と静粛性の高さにメリットがあります。
一方で燃費性能は、シエンタのガソリン車が18.3~18.4km/L、ハイブリッド車は25.3~28.8km/Lと素晴らしい数値なのに比べると、フリードのガソリン車が14.4~16.5km/L。ハイブリッド車が21.1~25.6km/とシエンタに比べると見劣りします。
どちらも最新版だがシエンタのACCとパーキングブレーキに注意【先進運転支援対決】
安全装備はシエンタがトヨタセーフティセンス、フリードはホンダセンシングとどちらも最新の運転支援システムを搭載しており、ほぼ互角です。ただし高速道路を走る機会の多い人にはACC(アダプティブ・クルーズコントロール)がシエンタの場合、最上級グレード以外は全車速追従タイプながら停止保持機能がない点のみやや微妙です。
フリードは全車停止保持機能も標準となります。またフリードは全車電動パーキングブレーキですが、シエンタは全車足踏み式となります。この点も踏まえるとややフリードの方が運転支援系の使い勝手は良い印象です。
柔らかいシエンタ、硬めなフリード【乗り心地対決】
最後にインプレッションですが、シエンタ、フリードともボディ剛性を向上させて、走行時に発生する前後左右の揺れを抑えているのが特徴です。ただし、シエンタは柔らかめの足回りのセッティングに対して、フリードはやや硬めのセッティングと同じフラットな乗り心地でもそのアプローチ方法は異なっています。これはどちらが良い悪いではなく、好みの問題なのでぜひ乗り比べてみることをオススメします。
5人乗り2列シート車ならフリード、3列シートならシエンタがおすすめ【総評】
新車販売台数が示すとおり、実力伯仲のシエンタとフリードですが、個人的にはシエンタがオススメです。それはフリードではオプションとなっているナビゲーションがGグレード以上で標準装備となっているからです。ナビゲーションは人気の装備ですが、オプションとなると20万円くらい必要となるので、それが標準装備というのは財布を預かる奥様にもプレゼンしやすいです。
一方、フリードはクロスターというSUVテイストのモデルを用意しているのはストロングポイントです。しかも5人乗り仕様の使い勝手の高さはシエンタより上です。個人的には5人乗り2列シート仕様ならばフリード。3列シート仕様ならばシエンタをオススメします。
※記事の内容は2024年8月時点の情報で制作しています。