2024年3月にWR-Vが登場、4月にはヴェゼルがマイナーチェンジと、最近、何かと話題なホンダのSUV。209万円スタートのWR-Vと264万円からのヴェゼルですが、WR-Vが長さ4,325mm、幅1,790mm、高さ1,650 mm、ヴェゼルは長さ4.340mm、幅1.790mm、高さ1,580~1,590mmと、高さ以外はほとんど同じサイズ。道具感のあるWR-VとスタイリッシュSUVのヴェゼルは果たしてどちらが買いなのか?この2台を次期愛車候補に挙げている自動車評論家の島崎七生人さんのレポートをお届けします。
生活環境の変化で高まる“実用車比率
旧世代の筆者がクルマの運転免許証を取得した40数年前といえば、自分のクルマとしてまず持ちたいと思ったのはスタイリッシュな2ドアクーペであり、ハイスペックなエンジンを搭載するスポーツカーだった。思いを貫き、最初の自分の愛車に某国産クーペを手に入れ、意気揚々と乗り回していた頃が懐かしい。
が、時が移り、歳を重ね、生活スタイルや環境が変われば、自ずとクルマ選びの指向、基準、条件も変わる。たとえば若い頃なら4ドアセダンなど家のクルマを拝借しているようで乗ることなど思いも寄らなかったが、その後(ブランドや車種が理由でもあったが)自分のクルマとして4ドアセダンには何台も乗るようになった。一方で生活環境ということでいえば、独りではなくなり家族ができ、家内だけでなく犬までクルマに乗るように。となればいよいよ自分のクルマの価値観においての“実用車比率”の高さを実感するようになった。
実用的でスタイリッシュなのがSUV
かつては(広報車を借りて)SUVで街を走っていると、自分だけ背の高いクルマに乗っている感覚だった。しかし最近は、同じようにSUVに乗り、休日で込み合う幹線道路の両方向とも渋滞の列の中にいると、すれ違うクルマの大半は“同じ目線の高さ”だ。軽自動車、クロスオーバー系、EVも含めると、今、国産SUVはざっと数えただけでも50車種以上。国産車の3分の1がSUVで占めている状況。現行モデルだけでなくそれらの先代や輸入車まで入れて、相当台数のSUVが街中に溢れている。ミニバンが広い室内空間と多人数乗車が可能な実用性の高さが魅力なのに対して、SUVは実用的なクルマでありながら、同時にスタイリッシュさも魅力として持っているところが、これだけ世の中で支持されている理由であり、世の趨勢なのだと思う。
我が家でも(この期におよんでやっと)SUVが次期所有車の選択肢に入ってきた。家族構成はずっと大人2人+中型犬1頭できたから多人数乗車のミニバンはスルーしてくることができたが、今の実生活に照らしてどんなクルマが相応しいか?と冷静かつ客観的に考えていくと、辿り着くのが、今どきの自家用車の主流のSUVとなる。今年に入っても内外のさまざまなSUVの広報車の試乗をしてきたが、セダンの少し低く懐かしいポジションは今でも身体にシックリと来るものの、その一方で、視線と着座位置がほどよく高いSUVも自然に受け入れられる身体になったような気がする。
納得のいく仕上がりに思えたWR-Vとヴェゼル
ここでようやくヴェゼルとWR-Vの話に移る。
文脈上、お察しいただけるとありがたいのだが、筆者がもしも今、自宅用としてSUVの中からどれか1台を選ぶとしたらヴェゼルかWR-Vのいずれかがその最右翼になる……という話の展開である。どちらのクルマもここ最近も何度か記事にしてきたが、各々のLPL(開発責任者)の話を聞き、実車に試乗し、その結果、筆者の中で納得のいく仕上がりに思えたのがこの2車だった。
ちなみに取材も矢継ぎ早でエッ!?という感じだったが、今年3月にWR-V、その翌月の4月にはヴェゼルのマイナーチェンジモデルが立て続けに登場した。なおホンダからはこの7月、燃料電池車のCR-V e:FCEVが正式発売にこぎつけたほか、上位車種のZR-Vには“ブラックスタイル”なる同車のトップグレードとなるモデルを追加設定している。つまりここにきてホンダのSUVラインナップは一気に充実が図られた状況にある。
おすすめはWR-Vなら234万円の「Z」、ヴェゼルなら341万円の「e:HEV Z AWD」
そんな中でもヴェゼルとWR-Vにまず注目がいくのは、身近な価格設定だから。何といってもリーズナブルなのはWR-Vで、車両本体の価格レンジは209万8800円から248万9300円。ベースモデルのXは税抜きであれば190万8000円と200万円を切り、最上級のZ+は250万円以下の設定。昨今、クルマの価格は当たり前のように上昇している中で、良心的な数字に抑えられているところが嬉しい。
一方で価格でいうとWR-Vの上に位置するのがヴェゼルで、こちらはグレードにより264万8800円から377万6300円の価格レンジ。立ち上がりの価格はガソリン車のAWD仕様で、これはWR-Vが全車FF車であることの補填の意味もあるとのこと。なおホンダのホームページ上での“おすすめグレード”はWR-VはZ+、ヴェゼルはe:HEV Z (FF:319万8800円、AWD:341万8800年)としている。WR-VのZ+は主として専用の外装パーツが備わる点が特徴だが、もしも筆者が選ぶとしたら実質的に同じZ(234万9600円)をおすすめでもいいと思う。
上級SUVにヒケを取らない!ヴェゼル史上最高の乗り心地
では走りの面ではどうか?というと、質実剛健的なのがWR-V、より上質感が味わえるのがヴェゼルとなる。実は少し前に両車を個別貸し出しで借り受け試乗したのだが、この時に乗ったヴェゼルの試乗車(写真のe:HEV Z・4WD)の心地よくスムースな乗り心地が、ヴェゼル史上最高に思えた。
後席の折り畳み機構で低くフラットな床面が作れることから、我が家の乗り心地・NVH評価担当のシュン(柴犬・オス・2歳半)が「なかなかいいじゃん」という顔をしていたが、上級クラスのSUVにヒケを取らない乗り味を手に入れたことがマイナーチェンジ後のヴェゼルの魅力であることを過日の試乗会の続き再確認した次第。
シンプルさを極めたWR-Vも快活に走る
WR-Vについては、ヴェゼルと較べた場合は、より実質重視といったところか。見るからにゴツッと逞しいスタイルどおりに仕上げられたクルマで、背を高くとったおかげで室内&ラゲッジルームも最大限のスペースが確保されている。
大きく取られた後席のドア開口などまったく言い訳なしの広さだし、水平基調のスタイルは取り回しのしさすさにも貢献している。駐車ブレーキが非電動だが、これもシンプルさを極めた証拠……と理解を示して接すれば不自由さはなく、プレーンな1.5Lの4気筒+CVTのパワートレインも、クルマのキャラクターに見合った快活な走りを実現している。
どちらも豊かな気持で生活の中で使いこなせる
SUVといってもより上級なモデルもあればEVもある。けれどヴェゼル、WR−Vは、いずれも、手の出しやすい価格設定なが、豊かな気持で生活の中で使いこなせるポテンシャルがしっかりと確保されている“良品”だと思う。とくに地方道が国道レベルの舗装に思えた乗り心地だった上の写真のヴェゼルの広報車(e:HEV Z・AWD、品川303そ51-67車)など、そのまま注文書にサインしたいほどだった。まあそれには、原稿の書き出しが天から降りてくるのを待つように、当たりの宝くじがどこからか降ってくるのを待つ必要があるのだが……。
(特記以外の写真:島崎七生人)
※記事の内容は2024年7月時点の情報で制作しています。