その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする新企画。第二回はようやく発売となった新型ホンダフィットです。ハイブリッドは誰が運転しても燃費があまり低下しないと謳うにもかかわらず、開発担当者から燃費運転のコツを聞き出した島崎さんがフィットの実燃費を試します。
最初はピンと来なかった
新型フィットのプロトタイプに最初に試乗したのは昨年9月のこと。場所は北海道・鷹栖のホンダのテストコースだったが、実はここだけの話、第一印象はスタイルも走りもあまりピンと来ていなかった。
夜の食事のテーブルでは開発責任者・田中健樹さんの隣で話も聞いたが、「大正末期の民藝運動から生まれた“用の美”をヒントに、機能に優れた心地よさを極めて人の心を満たす美しさをも宿した世界で唯一のコンパクトカーにした」と言われても、引用が高尚で、「そうですかぁ」と相づちは虚ろだったかもしれない。「“千利休の茶室”の話を聞いたのも、確か以前、どれかのホンダ車の開発責任者からだったよなぁ」とも思いが過った。
ジワジワと良さがわかるクルマ
けれど今年2月のプレス向け公道試乗会を経て、つい先ごろ、個別に広報車貸し出しの申し込みをし、ロケとリアルな生活スタイルの中で、自分のペース、使い方で改めて試乗し直した。
すると、ジワジワと“来た”のだった。歴代フィットで初めて「快適でいいかも知れない」とも感じたのである。特に乗用車らしい、サスペンションストロークをたっぷりと使った穏やかな乗り味は、北海道のプロトタイプ試乗の時から薄々と「シトロエンっぽい」と感じていたのだが、直近の公道試乗でその思いはいっそう強まった。
そうなると、“親しみが持て安心感もある日本の柴犬イメージという外観デザイン”を始め、サッパリ、スッキリとした内装、ややこしくなく素直に使いやすい操作系(スタートボタンと線対称の場所にある照度調節スイッチはプライオリティが高すぎかも)、無条件で空間が広くシートの座り心地もいい後席など、すべてに好感が持ててきた。
目指したのは誰でも燃費が低下しにくいシステム
一方で“燃費”も注目しない訳にはいかない。今回の新型フィットでは、ハイブリッドシステムをこれまでの1モーター+7速デュアルクラッチトランスミッション“i-DCD”から、“e:HEV”と呼ぶ2モーター内蔵電気式CVTに変更。システムの基本はインサイトなどの“i-MMD”と共通だが、モーターを小型化するなどしてフィットに載せている。
走行用モーターを先代の22kW/160Nmから80kW/253Nmへと大幅に強化、EVドライブモードでの走行頻度を拡大させることで実用燃費も向上を図った。3つのドライブモード(EV/ハイブリッド/エンジン)の最適な切り替えを実行しながら低燃費な走りを実現したという。
ちなみに「誰でも実用燃費の低下が生じにくいシステムとした」(ホンダ)のも新しいe:HEVのポイント。ホンダ関係者は「新型フィットは決して数字だけを追った開発はしなかった」といい、もちろんそれはトヨタ・新型ヤリスを念頭に入れた言葉だが、いずれにしてもユーザーベネフィットを第一義にしている。
でも上手な運転を心掛けると燃費がさらに良くなると聞き…
ならば新型フィットの実燃費を確かめてみよう……ということになった。今回はせっかくなので、エコランではないが“上手な運転”でどこまでの燃費が伸びるか試すことにし、事前にe:HEV開発担当の方から直々に運転のコツをレクチャーしていただいた。
その内容は、急のつく運転をしないこと、POWER ON後は最小限のアイドリングを心掛けること……といった一般的なこと(エアコンは可能な状態ならOFFにとあったので今回はそうした)のほか、一般道ではEVドライブモードをなるべく維持できるようアクセル操作に留意(踏み込み過ぎたりしない)、ハイブリッドモード時は加速を短めに終わらせEVドライブモードに復帰させる、ブレーキは強めに踏むと熱エネルギーに逃げて回生量が減るので早めにアクセルを戻し減速を心掛けるなど。
他方で高速走行時(エンジンドライブモードが主体。パワーフローメーターに小さなギヤマークが現れる)では、バッテリーメーターで充電量が70%以上(表示で7メモリ)であればアクセルペダルを短く戻せばEVドライブモードに切り替わるため、この方法を活用すれば高速走行時の燃費向上につながるという。これはいわばe:HEVドライブの“裏技”だ。
ちょっとしたコツでカタログ燃費とほぼ同数値となる驚きの結果
で、前述のようなご担当者様直伝(!)のコツを念頭に、高速道路は法定速度以内でなるべく一定で巡航、エアコンこそ未使用だったが、3泊4日の借用期間中、2つのロケを各1日ずつこなしたほか、我が家の柴犬のドッグフードを求めに自宅近所のペットショップへ出向いたり、家人とスーパーへ買い物に出掛けたりもした。
つまりストイックなエコランにチャレンジした訳ではなく、まったく普通に乗ったのだが、その結果、返却時のガソリン(もちろんレギュラーだ)給油量から割り出した満タン法ながら、結果は27.3km/ℓと出たのである。メーカーオプション付きの試乗車のWLTCモードは27.4km/ℓだから、その数値とほぼ同等の結果が得られた。この数値を出したフィットも立派なものだが、それと同時に、さぞ神経質なアクセルワークを心掛ける必要があるのだろうなあ……のコチラの予測とは裏腹に、ほぼ、ごく普通の感覚で運転がこなせたことも報告しておきたい。
安心しておすすめできるコンパクトカー
1点だけ試乗中に気付いたのは、なるほどブレーキ操作は“止め方の会得”が必要ということで、ラフに踏力をかけてブレーキングがほんの少しでも早過ぎると、回生しながら減速していき完全停止直前で(パワーフローメーターの反応、精度が高いせいか)電気を使ってモーターが一瞬だけ駆動したりもした。が、感触としては条件次第で燃費はまだ伸ばせそうだし、何よりクルマ自身が快適な上、リアルな燃費も上々となれば、安心しておすすめできるご自宅用コンパクトカーだと思えた次第だ。
※記事の内容は2020年4月時点の情報で制作しています。