その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第61回は前回に続いて都市型SUVとして誕生した「スバル レヴォーグ レイバック」です。ベースとなったレヴォーグとの違いを中心に、その内外装デザインについて株式会社SUBARU 商品企画本部 デザイン価値企画主査 兼 LEVORG/WRXデザイン開発主査の源田 哲朗(げんだ・あきろう)さんにお話を伺いました。
凜としたレヴォーグを大らかに包み込んだレイバック
島﨑:車種としては以前お話を伺ったことがあるWRXとレヴォーグのご担当なのですね。今回もよろしくお願いします。
源田さん:よろしくお願いします。
島﨑:それにしても、レイバックのステキな顔立ちはいいですね。
源田さん:ありがとうございます!
島﨑:見ていくと、フロントまわりのやわらかな趣は、これまでのSUBARU車とは明らかに違うというか。クルマとして都会的なところを目指したそうですが、そのことを反映したデザインということでしょうか?
源田さん:はい。まさにレイバックで提供したかったのは、このクルマとともに豊かな時間を過ごしていただきたいという思いがありました。それでデザインコンセプトを“凛”と“包”としました。
島﨑:“りん”と“ほう”。
源田さん:骨格がレヴォーグなので、レヴォーグはもともと先進性、スポーティさ、シャープさをもっていた。そのあたりの凛とした構えがレヴォーグのよさでした。それに対してレイバックでは、本当に豊かに大らかに包み込むようなところを掛け合わせることで、クルマの内外を仕上げています。
島﨑:ええ。
源田さん:で、先ほどお話いただいた顔回りですが、今まではグリル、バンパーと要素ごとにデザインしていましたが、今回はひとつの大きな流れというところでグリルが構成されていたりと、そういう作り方をしているので、デザイン的にはごく大きな面で繋がっているように見せています。グリルのウイングもレヴォーグが低く構えているのに対してレイバックはSUVなので、縦方向にしっかりと厚みを作っている。縦の厚みと横への広がりをバランスさせるためにウイングの位置を重心の高さを上げるために極力上にもっていき、そのまま面を突き抜けて、その勢いがそのまま後ろへずっと続いていくようなものとしました。
島﨑:ほうほう。
源田さん:それと左右に縦のフォグランプがあるのですが、これは豊かな面を引き締める役割を果たしています。そういう構成で表現しています。
レイバックは“土の香りのしないSUV”
島﨑:レヴォーグに対しては違うのはバンパーと、フードは?
源田さん:フードは共用ですね。ランプも実はレヴォーグなんです。フロントフェンダーもクラッディングがついていたりするので厳密にいうと違っていますが、形状は一緒です。レヴォーグに対して変化している部分としては、グリル、バンパー、クラッディング、リアバンパー、それとホイールです。
島﨑:以前のWRXの取材の時は、あの時の媒体の性格上、あまり突っ込んだ質問は控えたのですが、今回は少しだけグイグイ行かせていただきますが、今回のレイバックのデザインは今後のSUBARU車の方向性を示しているのですか?
源田さん:えーと、そこは違うという訳ではなくて、考え方としてレイバックは“土の香りのしないSUV”というのが大事なポイントです。要はクロストレックやアウトバックというのは土の香りがするSUVであり、レヴォーグはスポーティなクルマ。そんなスポーティさとかアウトドア、ラギッドなら我々はずっとやってきた。得意分野なので当然今後もやっていきます。そういった時に上質方向、都会的を目指したのがレイバック。実際にお客様からはレヴォーグじゃスポーティすぎる、アウトバックだとアウトドアすぎるという声をいただいてきました。そこで今までの得意分野に対してもうひとつ“キャラ”を立てたということです。スポーティ方向、ラギッド方向のクルマ作りはこれからもしながら……。
島﨑:新しい軸だから、当然違って見えるのだ、と?
源田さん:そうです。
顔回りの雰囲気はトヨタハリアーに寄せた訳ではない
島﨑:もう1つ突っ込ませていただきますが、小林PGMが市場調査をかけて都会的なSUVの人気が高いことがわかったと仰ってましたが、パッと見た印象ですが、レイバックの顔回りの雰囲気はトヨタハリアーに寄せた、そういう要請があった?
源田さん:それはデザインとしてはなかったですね。ただ商品コンペティターとして、たとえばハリアーはわかりやすいポジションにはありますが、あくまでも我々はSUBARUというものに響いていただけるお客様の中で、都会にお住まいの方が大切なパートナーの方とともにお気に入りの郊外に出かけて、豊かな時間をお過ごしになって帰ってくるような。そういう相棒として使えるクルマとして考えたのがレイバックです。
島﨑:なるほど。お話のストーリーのような豊かな時間が僕はなかなか過ごせないのですけれど、とにもかくにも、カクカクッとした今までの6角形グリルとどちらが好みか?と訊かれたら、断然、レイバックの顔ですね。
源田さん:ありがとうございます。
車高が上がることによる体格の良さ
島﨑:ところでインプレッサとクロストレックの関係もそうですが、この際伺いたいのですが、このレイバックもレヴォーグに対してかっこよさが増すのは、それはデザイン的などういう理屈からなのでしょう?
源田さん:レヴォーグには低く構える良さがありますが、レイバックは車高が上がることによる体格の良さがあると思います。先ほど縦の厚みのお話をしましたが、薄いものがそのまま上がっただけだと、おそらく腰高感があって華奢で安定しない。ですがレイバックでは、上がった分をしっかりと縦の厚みで表現してマスを稼ぐ工夫をしているので、そこがポイントだと思います。
島﨑:レヴォーグは全長が長いクルマのイメージもありますが、レイバックではそこも気にならないですね。
源田さん:ああ、それはもうひとつタイヤの扁平率が違ってレイバックのほうが同じ18インチでもタイヤが厚く外形が大きい。足元が大きくボディが厚いので、しっかりして見えるのだと思います。比率とバランスです。ちなみにレイバックでは、フロントの豊かな面を表現するために鼻を10mmくらい伸ばしています。
島﨑:そういうことですね。
源田さん:リアもバンパーしか変えていませんが、リアから見た時の腰高感が出ないように縦の厚みをどう表現するか?ということで、バンパーのボディ色に塗ってある面とクラッディングの比率やちょっとした面の角度でベストバランスを見つけて、リアもSUVらしい厚みの表現にこだわっています。
島﨑:当然、最初はいろいろなデザイン案はあったのでしょうね。
源田さん:ありました。当然最初はSUVらしい案もありましたが、割と最初のほうで、凛と包のテーマに基づいて豊か方向だろうと固めて、大枠には行き着いていたので、あとはそれを練り込んでいった。なのでそれほどブレていなかった。
今回新しくした要素はすべて凛と包を掛け合わせて表現
島﨑:内装については?
源田さん:今回は、形そのものはレヴォーグそのままの中でアッシュカラーを用い、色と素材で豊かさを表現しました。今までアイボリー、ベージュ、グレー、それとブラウン、タンなどがありましたが、既存のものだと既存の価値の提供にしかならない。そこでレイバックならではの豊かさにこだわり、アッシュカラーとしました。そこにカッパーのステッチを組み合わせてそれが身体を包み込むように……。
島﨑:“包”ですね。
源田さん:そうです。で、アッシュとカッパーは暖色で、普通はずべて暖色でまとめるのですが、ほんのり青味をもったシルバーの加飾を組み合わせました。ファブリックシート仕様だと生地に青がチラッと見える。暖色にあえて青味を組み合わせて、色ミックスで華やかで豊かな空間を作り出しました。そこもポイントです。
島﨑:技が使われているのですね。
源田さん:それとアルミホイールもシャープなスポークに変化する面を組み合わせて、これもシャープなスポークで凛を、豊かな面で包を表現しています。室内外、今回新しくした要素はすべて凛と包を掛け合わせて表現しています。ホイールの塗装も影面がグッと落ちて、光が当たったところは明るく抜けて、陰影の表情と立体感が豊かに出る色です。
島﨑:そうですか、ありがとうござ……。
源田さん:それとボディ色ではアステロイドグレー・パールが新色で、スポーティでソリッドライクですが、光が当たるとパールがふっと抜けて赤味が若干紫がかっても見えるという、上質な方向の新色のグレーとしました。クロストレックで採用している中明度のオフショアブルーメタリックというグレーがありますが、あちらは青味で元気系なグレーでレイバックとの性格分けもしています。
島﨑:そうですか。源田さんならではのマシンガントークを今回もお聞かせいただき、どうもありがとうございました。
(写真:島崎七生人、SUBARU)
※記事の内容は2023年9月時点の情報で制作しています。