その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第53回は前回に続いて販売好調な「三菱デリカミニ」です。デザイン、走りなどの eKクロススペースからの変更点について、三菱自動車 商品戦略本部 チーフプロダクトスペシャリストの藤井 康輔(ふじい・こうすけ)さんと広報部 商品広報グループ 主任の張替 杏子(はりがえ・きょうこ)さんにお話を伺いました。
大部分はeKクロススペースと共用だが、デザイナーはよくここまでやってくれた
島崎:デリカミニの企画自体は、eKクロススペースが出てからになるんですね。
藤井さん:今から2年半ぐらい前から検討を始めました。
島崎:このデリカミニは、eKクロススペースとのパーツの共用率はどのくらいになりますか?
藤井さん:かなり高いです。反対に変わった部分というと、フロントフェイス、リヤバンパー、テールゲートの一部、内装ではシートであったりとか、そうした部分的なところと、4駆の大径タイヤ、サスペンション、装備の細かなところ。基本的に変更した範囲はそういったところです。それ以外のパワートレイン、プラットフォーム、ドアなどボディの大部分は共用してます。
島崎:投資を抑えて合理的に作られているんですね。
藤井さん:eKクロススペース自体がデリカミニと狙っていたところの差が大きくはなかったので、基本は活用でき、イメージの弱かった部分を中心に変えることで、三菱らしく、デリカらしくと、上手く表現できたかなぁと思っています。
島崎:そう考えると、変わりようはなかなか大きいですね。
藤井さん:ありがとうございます。私もとくにデザイナーには、よくここまでやってくれたなぁと思っています。
カスタマイズしていく楽しさ、“デリカミニ女子”も早くできてほしい
島崎:フロントフェイスも、ダイナミックシールドっぽいデザインは残しながら、随分と印象は違いますね。いい意味で軽いというか。
藤井さん:今までのダイナミックシールドは、それありきのデザインでした。車格もお客様も違うところがあった。ブランドの形ではありましたが、ターゲットに合わせて進化させていくべきだとはデザイナーとも話をしていまして、デリカミニはその進化させた第一弾ともいうべきクルマで、ダイナミックシールドはキープしながらも、軽サイズのデリカミニに相応しいデザインに進化させられたのではないかなぁと思っています。
島崎:とすると、他の三菱車もこれからはより自由度の高いフロントマスクのデザインで登場してくるということですね。
藤井さん:うーん、言い方は難しいですが、仰るとおり自由度は広げていいきたいなぁと思っています。
島崎:確かにデリカミニのフロントフェイスは、ゴツ過ぎず親しみのあるデザインですよね。前後のDELICAのロゴはアクセント、主張ですね。
藤井さん:好き嫌いが出るかなぁと思ったのですが、ネガな反応はなくて、カワイイと言っていただいています。
島崎:オプションでボディサイドにスペックが入っているのは、昔、ミニカ・ダンガンZZのドアに“DOHC 5バルブインタークーラーターボ”と書かれていたりしたのを思い出しますが。
藤井さん:オマージュデカールと呼んでいまして、ミニカのダンガンやデリカスターワゴンの4WDなど、最近の流行りでもある古き良き時代をモチーフにしたアイテムです。クルマ自体は奥様の承諾をいただく必要がありますが、やはりデリカというと、カスタマイズしていく楽しさも長年人気を得ている理由のひとつだと思っています。デリカミニでもそういう楽しみ方をしていただきたいと、用品チームにもいろいろ考えてもらいましたし、サードパーティの展開なども含めて“親デリカ”に並ぶようなことはどんどんやって行きたいと考えています。最近は“デリカ女子”といってカスタマイズを楽しんでいらっしゃる方たちもおられたりするんですよ。“デリカミニ女子”も早くできてほしいな、と。
島崎:“デリカ女子”、あ、そうですか。最近はステイホームが多くて、世の中の動きに疎くて存知あげていませんでした。
藤井さん:ははは。
もう少し荒れた路面や深雪で性能をより発揮できるデリカミニ
島崎:ところで自動車ジャーナリストらしい質問もしておきたいのですが、このデリカミニでは走り、乗り味などはeKクロススペースとはどう違うのですか?
藤井さん:1番の特徴は4WDの大径タイヤの採用と、サスペンションではショックアブソーバーの減衰力をチューニングしています。とくに荒れた路面での入力側の衝撃吸収を高めていて、安心できる乗り心地にしてあります。あとは4WDの制御も少し変えておりまして、eKスペース、eKクロススペースがコンスタントに安心できる走行性能を発揮できるようにマイルドな制御にしているのに対して、デリカミニについては、もう少し荒れた路面や深雪で性能をより発揮できるようにし、デリカらしい走りが体現できるようにしてあります。
島崎:随分、細かくチューリングし直してあるのですね。
藤井さん:ベースがeKクロスなので限られた範囲ではありますが、チューニングの範囲で何とかデリカらしさを出したいと思いました。
島崎:大径タイヤもポイントですね。
藤井さん:165/60R15です。スズキさんのハスラーと同じですが、軽のスーパーハイトワゴンではデリカミニだけが使っています。扁平を少し厚くすることで、タイヤの空気圧でかなりの衝撃吸収ができ、さらにサスペンションでフォローができているので、乗り較べていただくと違いがわかります。当社のテストドライバーの増岡にも十勝のテストコースなどで乗ってもらい「走行性能がかなりよくなっている」とコメントを貰っています。
ステアリングヒーターは女性にも評判がいい
島崎:装備ではどういう違いがありますか?
藤井さん:eKクロススペースからの違いでは、シート形状を新しくしました。両サイドの部分にPVCを使い、メインの座面、背もたれの表皮を少しモコモコとした、ダウンジャケットから着想を得た、撥水性、通気性に優れ、座り心地もいい生地を使い、それを全車に標準装備としました。もともとeKクロススペースでは樹脂製のラゲッジボード、PVCのシートバックなど、アウトドアに使っていただく時に汚れたものを積み込んでも掃除がしやすいようにしてありましたので、デリカミニではシートにこだわって改良を加えました。
島崎:なるほどそうですか。
藤井さん:あと装備では、ステアリングヒーターも新規採用しました。デリカミニでは6割近くは4駆になっていますが、シートヒーター、ステアリングヒーターを求められる方が多い。ステアリングヒーターは女性にも評判がいいんです。eKクロスEVでも標準にしましたが評価が高かったので、デリカミニでも採用しました。
島崎:そうですね。ウチの家内も冬になると「霜焼けができた、手が真っ赤!」と台所で言い出し「はい、残りの食器洗いは僕がいたします」となり、通販や何やらで手に塗るクリームも何種類も買うのが例年のことになっています。
藤井さん:そうですか。冬でもアウトドアでアクティブな使い方をされる方はいらっしゃるので、ハンドルが温かいと喜ばれるのかなぁ、と。
正直コストは結構かかっています
島崎:ところで藤井さんにとってデリカミニの1番の“推し”といったら、どこになりますか?
藤井さん:ひとつはひと目で見てタフでありながら愛着感のある外観デザイン。他社さんの軽自動車にはなかなかないものができたと自負しています。2つ目はこだわった走行性能。ヒルディセントコントロールの搭載はこれも他社さんにはないこだわりですし、グリップコントロールの機能も持っています。キャンプ場でもちょっとした雪のあるところでも安心して走行できるところは、普通、軽のスーパーハイトワゴンでそこまでするメーカーさんはないと思いますが、我々はデリカの名前を使う以上、こだわって作ってきたところです。
島崎:なるほど、それらはコスト的にベースのeKクロススペースがあったからこそ実現できた、やりやすかったということでもあった?
藤井さん:いや、正直コストは結構かかっています。我々はそこまでやって、当然コストが発生するので、ベースがあったから有利だったということではないんです。クルマはタイヤサイズ、サスペンション、入力などは開発の最初に決めて作り込んでいくもの。あとからタイヤサイズを変えて、それに伴って車高も変わったり、前後重量配分も変わったりとなると、ボディの強度、操縦安定性などいろいろなところに影響が出てくる。そうしたところのバランスをとりながらやっていかなければならず、ベースがあるからと、決してお安くできるということではないんです。
島崎:開発エンジニアのお仕事ぶりを否定するような質問で、大変失礼いたしました。このあとの試乗会を楽しみにしています(注:インタビューはプレス向け試乗会よりも前に実施)。
藤井さん:ぜひ感想などをお聞かせください。
島崎:はい。あ、それと“デリ丸”のヌイグルミが当たるジャンケン大会のコーナーなど設けていただけたら、いつも以上に張り切って出向きますので……。
藤井さん:あのデリ丸は、まだ持ち出し禁止なのかな?
張替さん:あの子は試乗会場に連れて行く予定ですが、“分身”がまだ間に合わなくて、CMに登場したあの子1体しかいませんので(笑)、よろしければクルマと一緒に写真撮影をしていただければと思います。
島崎:はい、わかりました……。ありがとうございました。
(写真:島崎七生人、編集部)
※記事の内容は2023年6月時点の情報で制作しています。