その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第46回は5代目トヨタプリウスPHEV(プラグインハイブリッド)です。プリウスのPHEVモデルとしては3代目にあたる新型について、トヨタ自動車株式会社 パワートレーンカンパニー 電動パワトレ開発統括室 グループ長の冨田 誠(とみた・まこと)さんにお話を伺いました。
デザインを見た瞬間に“これはシッカリと走らなければいけない”と思った
島崎:以前にお目にかかったのはいつでしたっけ?
冨田さん:多分、RAV4のプラグインハイブリッドも担当していますので、その時の取材会だったと思います。
島崎:ざっくりと伺ってしまいますが、今回の新型プリウスのプラグインハイブリッドについてコンセプトや設計上のポイント、あるいは皆さんの思いというと、どういうところになるのでしょうか?
冨田さん:そうですね。まず最初にデザインを見た瞬間に“これはシッカリと走らなければいけない”と我々も思いました。そのパワートレーンを実現するためにはどうしたらいいか?と考えました。それとPHEVなので、バッテリーのスペースなどの工夫が必要なのですが、このデザインを実現するための小型化にも力を入れました。
島崎:確かに先代より、全高が40mmも低くなっているのですね。
冨田さん:はい。もともとPHEVはラゲッジルームの下にバッテリーがあったのですが、新型ではリアシート下にもってきました。旧型のお客様からはラゲッジスペースの不満の声をいただいていたので、広げて、かつバッテリーは体格(=大きさ)はほぼ同じですが、容量としてはEV走行距離で50%くらい上げています。
島崎:それはいいですね。
冨田さん:それから出力も90kWだったのを164kWに増やしています。
電池パックを大きくせずに出力は80%上げ、EV距離も50%以上伸ばした
島崎:時代の進化分の、使えるようになった技術とか、そういったところはどんなことがありますか?
冨田さん:今回、電池パック自体の体格はハイブリッドとほとんど変わらないですし、従来型のPHEVとも全然変わらないですが、出力は80%上げ、EV距離も50%以上伸ばしている。通常これだけのことをやるには電池パックを大きくしなければいけないところを、そうせずに実現できているところが頑張ったところです。
島崎:……とサラッと仰いますが、大変なことを実現されたんですね。
冨田さん:そうですね。開発中は節目に会議があるのですが、その直前に必ずトラブルが起きたり(笑)。ですので、なかなか寝られない日々が続いたというか……。
島崎:それはそれは。まして半導体の問題とか生産計画の変更とか、いろいろあったでしょうし。設計変更を強いられたようなことはありましたか?
冨田さん:うーん、詳しいことはあまり言えませんが、ないことはなかったです。
島崎:やはり。
冨田さん:部品などをできるだけいろいろな会社に発注できるようにして一社に集中させないとか、特殊な材料は極力使わないといったことは常日ごろ考えていました。
島崎:そうした時に、プリウスとあらば、社内的な調整時の優先順位が他の車種よりも高いといったことはあるのでは?
冨田さん:いや、それは直接、僕にはお答えできないところですが……。
島崎:そういう形のやり繰りのお話は各社でお聞きしますね。
冨田さん:法規を満足させるために、この国はこれだけ燃費を下げないといけないとか、そういうことはあると思いますが。
エンジンがかかるとより嬉しい、そんなドライバビリティになっている
島崎:PHEVもPHVも今では車種が増えてきましたが、ここは他車と較べてもプリウスのアドバンテージである、というとどこになりますか?
冨田さん:このクラスでこの出力、0→100km/h加速6.7秒というのはなかなか出せないと思います。確かにタイムだけであれば勝るクルマもあると思いますが、このEV距離、そして燃費を出しつつというパワートレーンはないと思います。
島崎:ドライバビリティに関しては?
冨田さん:パワートレインで言いますと、前回のPHEVはジェネレーターと呼んでいるフロントモーターを駆動に使っていました。今回は出力が上がっているので、その必要がなくなり、従来はEVモードからハイブリッドモードに切り替わる時に、ショックやタメがあったりと、ちょっとスムーズではなかった。今回は無駄な機構がないので、移行がスムーズによりパワフルに行くようになりました。
島崎:ほうほう。
冨田さん:正直、今までのプラグインハイブリッドは、エンジンがかかるとちょっと残念な感じがあり、パワーも出ているわけでもなくエンジン音も大きくショックもあった。新型ではエンジンがかかるとより嬉しい、そんなドライバビリティになっていると思います。
島崎:確認ですが、新型の仕組みはどうなったのですか?
冨田さん:旧来はデュアルモータードライブシステムといい、発電用のモーターもEV走行においては駆動にも使っていました。ワンウェイクラッチを使った動力分割装置によりロックすることでそうしていました。今回はそれをなくしたところが違いです。なぜなくせたかというと、モーターの出力を大幅にアップしたことで発電用モーターを駆動用モーターとして使う必要がなくなったからで、そこで外せた、ということです。
島崎:そのことでドライバビリティが向上させられたメリットと……。
冨田さん:ユーザーの方にはよりお安く提供できるようになったというメリットももちろんあります。
島崎:バッテリーの容量は?
冨田さん:8.8kWが先代で、新型は13.6kWになります。
島崎:その容量アップはどのように決められたのですか?
冨田さん:競合車や法規関係を見ながら、これくらいEV距離を走りたいよね、というところから決めています。他車もEV距離を伸ばしてきていますので、そのあたりは同等あたりは目指していく、と。
カローラなどもある中でプリウスをどうしようか
島崎:今はピュアEVもPHEVも増えてきましたから、その中でプリウスのプレゼンスをしっかり持たせることは重要課題でしょうから。僕は商品企画の担当者じゃなくてよかった……などと言ったら怒られますけど。
冨田さん:実際にカローラなどもある中でプリウスをどうしようか?というのは悩みましたし、パワートレインとしても“次のプラグインハイブリッドはどういう性能にするか?”というのは結構悩みながらやってきました。
島崎:最初にスタイルに見合った性能をとお話がありましたが、冨田さんの部署の方の間でも、新型のスタイルの受け止めは「おぉ!」な感じでしたか?
冨田さん:なかなかないですよね。非常に走らせないといけないスタイルというか。
島崎:従来型はそうではなかったですか?
冨田さん:従来型は僕自身は担当していなかったので、ちょっとわからないのですが……。ただパワトレとしても1.8ℓと2ℓのシステムがありますが、あえて2ℓを持ってきたのもデザインに見合った走りを実現するためという意図もありました。
島崎:そうでしたか。新型プリウスがどれくらい評判になるか楽しみですね。ありがとうございました。
(写真:島崎七生人、トヨタ)
※記事の内容は2023年2月時点の情報で制作しています。