その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第37回は前回に続き2代目に進化した「ダイハツムーヴキャンバス」です。新型の差別化ポイントであるモノトーンの新シリーズ「セオリー」とターボ車を中心に、前回の「デザイン編」に引き続きダイハツ工業株式会社 くるま開発本部 製品企画部 第1企画グループ 主担当員の松山 幸弘(まつやま・ゆきひろ)さんと、デザイン部 第2デザインクリエイト室 CMFスタジオ 主任の畑 延広(はた・のぶひろ)さんに話を伺いました。
最近は女性のイラストを描く時に“鼻”を描かない
島崎:そういえば新型は、これまでのフロントにあった丸型のエンブレムから、車名のアルファベットのバラ文字に変わったんですね。
畑さん:丸いエンブレムは実は社内でも好評で残したいという意見は確かにありました。ただ今回は、丸いエンブレムがアイコン的にかわいらしく見えたこともあったので、よりスッキリさを表現しながら、街中でも車名を見ていただけるということもあり、あのようにしました。
松山さん:ひとつ言われていたのは、最近は女性のイラストを描く時に“鼻”を描かずにあえてスッキリとした顔付きにしているイラストを見かけます。鼻=アイコンがあると強くはなるのですが、スッキリ感の意味ではないほうがいい。だた、ないと今度はツルンとしてしまうので、そのあたりのバランスで、従来は後ろだけでしたが、今回は前にも車名を付けさせていただきました。オプション設定の車名ロゴはさらに大きいです。
島崎:フードの前側にレンジローバー方式に付いたオプションのバラ文字は、確かにかなり大きいですね。このあたりは畑さんのチームのお仕事ですか?
畑さん:部品ごとに企画側がまず立案するのですが、デザイン部も一緒にスタイリングはしていきます。丸いエンブレムはディープブラックメッキを使用するなどして、少し濃い目の味付けにしてあります。
モノトーンを選ぶと安いクルマに乗っている感じがすると言われ……
島崎:そうそう、今回は新シリーズとして“セオリー”が設定されたのは大事なことだと思いますが、その狙いを改めてお聞かせいただけますか?
松山さん:今回キャンバスをモデルチェンジするにあたり、従来型を買っていただいた方と、買われなかった方にヒアリングさせていただきました。すると買われた方はかわいいよねと仰るのに対し、買われなかった方はクルマとしてはいいよね、でもモノトーンを選ぶと、(注:2トーンのほうが価格が上だったことなどから)安いクルマに乗っている感じがすると仰る方がいました。そこで2トーンと同じような価値観を持ったモノトーンにすれば、モノトーンを選ぶことに対して何の問題もなくなるのかな、と。
島崎:なるほど。
松山さん:もうひとつは、かわいい外観+かわいい内装の2トーンに対し、落ち着いた外観+かわいい内装ではちょっと変だよねという声もありました。そこで今回はモノトーンの内装をしっかり区分けをして、シート表皮も青ベースのものとして、世界観を分けることで、これまでいいよねと言われながら我慢されていた方々に向け、チープじゃない外観と内装のモノトーンにしました。
島崎:だからキャッチコピーは“大人のキャンバス、はじまる”なんですね。
かっ飛ばすためではないターボ
松山さん:はい。それとターボを用意したのも、これまで平地はNAで十分だと思っていましたが、かっ飛ばすのではなくて、山のある地域などにお住まいの方にも乗っていただきたくて設定したものです。それによって、使い勝手のいいスライドドアは、女性だけでなく、いろいろな方に乗っていただけるかなぁと思っています。
島崎:確かに乗り較べると、動力性能の余裕を実感しますね。
畑さん:キャンバスは娘さんだけではなくお父さんも一緒に乗るよ、といったお客様もたくさんいらっしゃって、そうした時にお父さんはかわい過ぎて乗れない、と。その点、今回の新しいセオリーならお父さんにも乗っていただけるし、息子さんかもしれないし、そうすると男性を含め年齢も問わずキャンバスに乗っていただける。
島崎:かわいらしいクルマにお父さんが乗っていると、出かけた先で、訊かれてもいないのに「いやぁ、これは娘のクルマで……」などとモゴモゴと言い訳したくなったりしますからね。
松山さん、畑さん:あははは。
島崎:オヤジ世代の僕でも、セオリーはやはりシックリきながら試乗できました。シート表皮も落ち着いていていいですし。
松山さん:ありがとうございます。シート表皮を色味のまったく違うものにし、手触り感などにもこだわって設定しました。
NAとターボの足回りが共通な理由
島崎:ボディ色は今までのダイハツ車にあったものですか?
畑さん:レイクブルーメタリックはタフトにも設定があります。サンドベージュメタリックもタフトにも設定している色で、先代はもう少し赤味の強い、かわいらしいベージュでしたが、今回はスッキリというコンセプトに合わせたのと、女性でも男性でも問わずに乗っていただけるベージュということで採用しました。
島崎:同じような色調のベージュのクルマをオトコの僕が今の足グルマに乗っていますから、よくわかります。メッキのモールやドアハンドルも、さり気なく上質感を醸し出していますね。これでキャンバス、ひいてはムーヴの販売台数をグッと上乗せということですね。
松山さん:セオリーを加えたことで、ムーヴの中で割れるとは思っていないので、今まで買っていただいた方の外側でセオリーというクルマはたぶん響くのかなぁ、と。
島崎:NAとターボでいうと、足回りの設定は違うのですか?試乗車はタイヤの銘柄がBSとダンロップと違っているのは見たのですが。
松山さん:足回りは一緒です。タイヤはたまたまで、どれかが装着されることになります。
島崎:繰り返しになりますが、やはりターボは走らせやすいですね。
松山さん:仰っていただいたように、弊社ではかつてもっとパワーを出して足を硬くしたカスタム系がありました。が、今回のキャンバスではもともとNAがあって、3グレードの中心にある“G”に対して、オプション的にもうちょっとトルクが欲しいよね……といった場合に選んでいただくのがターボ。操安などの狙っているところは一緒で、使い勝手にあわせてパワーユニットを選んでいただくようにしました。街中をチョコチョコ走るのでしたらNAでも十分と思っています。
“置きラクボックス”はキャンバスにとって大事なアイテムのひとつ
島崎:ひとつだけ、この車のリヤシートのスライド操作ですが、シートのサイド側にレバーがあるのが、ちょっと見つけにくいのと、操作時にシートを押す時の力の入れ方が独特というか、工夫が要るように感じました。
松山さん:仰るとおりで、シートの前側には“置きラクボックス”があって普通にあるプルハンドルが置けないものですから、結果として、スライドさせる時に、座りながら常に手がかかるところとしてドア側の空き場所に付けています。
島崎:置きラクボックスも、今回は片手操作で衝立が起こせるようになったとのことですが、引き出しを閉じる時に自動で格納される折り畳み式のカップホルダーのような構造だとワンタッチで仕舞えてより便利なのでは?無精者の意見で申し訳ありません……。
松山さん:それも検討した中ではいろいろあったんです。ただ衝立を下げたままサンダルなどを入れて仕舞いたいといった使い方や、衝立を立てて使いたいという2パターンの判断でこうしました。旧型の衝立はマジックテープを自分で止める必要があり、下げたまま使っている人が多かったので、今回はワンタッチにしました。いずれにしても、キャンバスにとって大事なアイテムのひとつなので、これからもご要求をお聞きしながら考えていきたいと思います。
島崎:現状でも左右別々に240mmのスライドができたり、4度から50度のリクライニングが効いたりとか、便利で充実した機能が盛り込まれていますよね。
松山さん:今回、シートは“ソファ”をキーワードにこだわっています。
島崎:とりとめもない質問にお答えいただき、どうもありがとうございました。あの、ウチにも柴犬が1頭おりますので、もしも次のCMのモデルのご用命がありましたら、その時にはぜひご推挙のほどよろしくお願いいたします(笑)。
松山さん/畑さん:あはははは。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2022年9月時点の情報で制作しています。