日本の自動車メーカーだけでなく、韓国のヒョンデがすでに今年から、そして中国のBYDが2023年に日本市場にBEV(バッテリー電気自動車)を導入すると発表しました。これまで高い、走行距離が短い、充電インフラが不足している、という理由で普及しなかったBEV。2022年を境に風向きが大きく変わるのは間違いないでしょう。今回は月間販売台数の約4倍の受注を獲得した三菱eKクロスEVのインプレッションを萩原文博さんのレポートで紹介します。
発売1ヵ月でサクラ+eKクロスEVで約15,000台を受注!
2022年は、まさにBEV(バッテリー電気自動車)の普及元年と言える年になりそうです。軽自動車規格のBEV、日産サクラと三菱eKクロスEVは、5月20日の発表から1ヵ月足らずでサクラは約11,500台、eKクロスEVは約3,400台を受注しています。
日産はリーフを、そして三菱は軽自動車のiをベースとしたiMEVを販売しており、国産メーカーの中でBEVに関してはパイオニアと言えるメーカーです。その2社がタッグを組んで今回市場に導入したのが、軽自動車規格のBEV、日産サクラと三菱eKクロスEVです。
補助金を活用すれば100万円安くなる
サクラとeKクロスEVは好調なのに、なぜiMEVは普及しなかったのか、と考える人もいるでしょう。それは価格が高い、走行距離が短い、充電インフラが不足していた、という高い壁に阻まれたのが理由です。
今回試乗した三菱eKクロスEVの車両本体価格は239万8000~293万2600円。エントリーグレードなら、人気を集める軽自動車スーパーハイトワゴンのターボ車と変わらない価格帯です。さらに、令和3年度補正予算「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」および令和4年度「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」の対象となっていて、55万円の補助金を受けることができます。都道府県などでも補助金があり、東京都では45万円というZEV補助金を活用すれば、合計で100万円も安く手に入れることが可能なのです。
しかし、実際にこの三菱eKクロスEVのような軽自動車規格のEVを待っているのは、ガソリンスタンドが近所にない、過疎化が進む地方の一軒家の多いエリアでしょう。100万円の補助金が受けられる都内ではマンションなどの共同住宅に住んでいる人が多く、充電器問題にぶつかります。しかし、地方の一軒家の多いエリアであれば、自宅での充電の問題はないに等しく、遠くのガソリンスタンドに行くこともなく毎日のアシとして使うことができます。
ノートe-POWERのリアモーターと共通化でコストダウン
eKクロスEVは三菱の軽自動車シリーズeKクロスの最上級モデルとなります。ベースはハイトワゴンのeKクロスで、外観デザインは踏襲しています。ボディサイズは全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,655mmと軽自動車枠となっています。搭載するモーターはMM48型の交流同期電動機で、最高出力47kW、最大トルク195Nmを発生します。
ちなみにこのMM48型モーターはコンパクトカーのノートe-POWER 4WDに搭載されているリアモーターと同じ製品です。iMEVが登場した当時は専用パーツばかりで高価となっていました。しかし日産はe-POWERというモーター駆動で走行するハイブリッドを普及させています。そのパーツを共用することでコストを下げることができたのです。
毎日50km使っても3日間充電不要
また、電池の進化も目覚ましいものがあります。総電力量20kWhの駆動用バッテリーを搭載しているeKクロスEVの満充電時の走行可能距離はWLTCモードで180kmを実現しました。軽自動車やコンパクトカーの約8割のユーザーは1日あたりの走行距離は50km以下と言われているので、通勤、買い物送迎といった日常使いを行っても3日は充電する必要はありません。
eKクロスEVは普通充電(AC200V/14.5A)と急速充電の2つの充電ポートを装備していて、普通充電は約8時間、急速充電では約40分で80%の充電が完了します。さらに、駆動用バッテリーにはエアコン冷媒を用いた冷却システムを採用しています。これにより、電池の温度上昇を制御することが可能で、高速走行と急速充電を繰り返すロングドライブにおいても、高い充電量をキープすることができます。
また、eKクロスEVをV2H(ビークルトゥホーム)機器と接続すれば、電力使用量の多い日中に駆動用バッテリーに蓄えた電力を家庭で使用し、電気の需要が少なく料金の安い夜間に駆動用バッテリーを充電するなど、節電に貢献することができます。eKクロスEVの駆動用バッテリーに蓄えた電力は一般家庭の約1日分に相当します。停電した場合は、V2H機器を介して非常用電源として役立ちます。
運転支援システム、コネクティッドサービスも充実
運転支援システムも最新鋭のシステムを搭載。高速道路同一車線運転支援システム「マイパイロット」を採用したうえ、スムーズな車庫入れをサポートする「マイパイロットパーキング」を採用。この機能は、駐車可能位置を自動で検知し、後退しての駐車、前進しての駐車、縦列駐車のいずれにも対応しています。
さらに、安全・安心で快適なカーライフをサポートするコネクティッドサービスの「MITSUBISHI CONNECT」も採用。万が一のSOSコールをはじめ、駆動用バッテリー残量やドアの開閉状況が確認できるマイカーステータスチェック、離れたところからエアコンが開始できる今すぐエアコンなどの便利な機能でカーライフをサポートしてくれます。
軽ターボ車の2倍近いトルクでスムーズな加速
今回試乗したのは、車両本体価格293万2600円の最上級グレードのPです。Pには、スマートフォン連携ナビゲーションをはじめ、ビルトインETC2.0ユニット、運転席&助手席シートヒーター、ステアリングヒーター、電動各方式ヒーテッドドアミラー、LEDフォグランプ、ルーフスポイラーなどが標準装備となっています。マイパイロットやマイパイロットパーキングはパッケージオプションとなっています。
ターボエンジンを搭載した軽自動車のeKクロスの最高出力は64ps、最大トルクは100Nm。一方今回試乗したeKクロスEVの最高出力は軽自動車のルールに則って64psですが、最大トルクは195Nmとなっています。195Nmというと2Lガソリン車に匹敵するトルクです。
軽自動車としては重量級の車両重量1,080kgのeKクロスEVですが、この195Nmという最大トルクを低回転から発生するので、非常にスムーズな加速性能が特徴です。もちろん、加速しているときや、追い越しを掛ける際でも、軽自動車特有のエンジンのうなり音は全く発生しません。
そして、重いバッテリーを床下に設置し、低重心を実現しているので、無駄な動きが少なく非常に滑らかな走りを実現しています。使い勝手や取り回しの良さなどは全くスポイルすることなく、BEV化することで、従来の軽自動車では達成できなかったスムーズな走りと高い静粛性をeKクロスEVは手に入れることができました。
クルマが必需品のエリアにこそうってつけ
eKクロスEVは大きさこそ軽自動車の規格に収まったBEVですが、これまでの軽自動車と比較するべきものではありません。それは航続可能距離を除けばすべての性能が上回っているからです。一軒家など自宅に充電器を設置することができれば、180kmという航続可能距離も気にならないでしょう。それは多くの人が自宅に帰ればスマートフォンを充電するというルーティーンを行っているからです。生活にクルマが欠かせないエリアで、eKクロスEVのような小さなBEVがより身近な存在となるのは間違いないでしょう。それくらいのポテンシャルを感じました。
※記事の内容は2022年6月時点の情報で制作しています。