2017年に登場した2代目のスズキスペーシアが、2022年5月の販売台数ランキングで王者・ホンダN-BOXを僅差で破り、ついに悲願のナンバーワンに輝きました。そんな大器晩成型(?)のスペーシアの魅力を再確認すべく、島崎七生人さんが愛犬「シュンくん」とともに試乗に臨みました。
3タイプ揃ったスペーシアのバリエーション
ものすごく根源的なことだが、クルマは、オーナーがどこでどう乗ろうと自由である。自戒の念を込めて言えば、ウェブや雑誌の記事などで、ついキャッチーな仕上がりにしたいばかりに“キャンプ場で映えるSUVはコレだ!”などとやってしまう(そういう言いまわしが何ともムズガユクて僕はあまり好みではない)が、思えばそれは発信側の固定概念、お仕着せ、断定であり、読者の立場からすれば、別に生涯で1度もタイヤを土や砂や雪で汚さないSUVがあってもいいじゃん……だと思う。
要は“気分”の問題だ。
ところでスズキスペーシアギアである。スペーシアのバリエーションには、標準車と血気盛ん系のカスタム、そしてギアの3タイプが揃う。こうなると想像に難くないのは、標準車は子育てママさんのお買い物用、カスタムは若いユーザー、そしてギアはアウトドアが趣味の人向け……といった分類。もちろん商品企画上はそうだろうが、だからといってその通りに選んで使わなければならないのか、といったら、まったくそんなことはない。
理屈抜きで気分よく乗れるクルマ
今回、スペーシアギアを数日間借り受け、試乗を兼ねて、とくにキャンプ場やアウトドアスポーツに使うことなく、ごく日常的な使い方をしてみた。ちょうど我が家では、少し前に7歳で突然旅立った愛犬(“ハル”という名のオスの柴犬で、飼い主よりも多くの連載を持ち、カルモマガジンの記事にも何度か登場させていただいた)の後継の新・モータージャーナリスト犬(またも柴犬で名は“シュン”といい、生後5ヵ月を過ぎたばかり)を迎えたところ。
カレの健康診断やシャンプーやフードの買い出し(目下、食欲旺盛ですでに体重が9kgを超えた)の往復など、ガソリンの残量警告の表示が出るところまでガシガシといった感じで乗った。そんな風に生活の中でリアルにスペーシアギアに試乗し、このクルマが理屈抜きで気分よく乗れるクルマであることが実感できた。
とにかく“心地いいクルマ”だと思う。
で、その心地よさには主に3つの要素がある。まず1つ目は何といってもスタイルが心地いいことだ。もともとスペーシア自体、他のスーパーハイト系のモデルとはひと味違うデザインテイストを持っている。具体的にはホンダN-BOX、ダイハツタントがいずれもプレーンで直線的な味わいのスタイルなのに対し、スペーシア自体、ルーフ全体を大きな曲線で仕上げ、フェンダーのコーナーやドアガラスの輪郭などのカド丸でやわらかな印象を作っている。その上でボディサイドに凹のビードを走らせてちょうどアルミのアタッシェケースのような堅牢そうな見た目にしているところもポイントで、スーパーハイト系ながらガッシリと安心感のある佇まいになっているところが魅力だ。
その上でスペーシアギアでは、ヘッドランプやグリルなどフロントのデザイン、ボディ下まわりのプロテクター処理で個性を出している。……と、このことを称してSUV風と書いてはよくある普通の記事になってしまうが、だからといってアウトドアレジャーに出かけなければイケナイかというと、まったくそんなことはない。むしろ普段使いに乗って、スーパーの駐車場に停めたスペーシアギアをふと眺めて、退屈しない楽しげなスタイリングが目と気持ちを楽しませてくれる……そんなところが魅力。スーパーの駐車場に停めてクルマに戻る際にも、何となく心弾む気分が味わえた。
意外や余裕のある走り、その出足にストレスなし
あと2つのスペーシアギアの心地いい要因は“走り”と“使い勝手のよさ”だ。
走りはちょっと意外に思う方もおられるかもしれないが、全体に余裕のあるところがいい。パワートレーンは64ps/10.0kg・mの3気筒ターボに3.1ps/5.1kg・mの電気モーターと10Ahのリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッドシステム。さらにエンジンそのものは可変バルブタイミング機構を備え、パワーモード切り替えスイッチとパドルシフトも備える。
これらのスペックにより、決してスポーティーにヤル気満々で走らせるつもりでなくとも、通常の走行で街中なら高速走行まで、常にアクセルワークに齟齬がない余裕の走りが実現されている。とくに場面を問わず出足がスッとストレスがないのがいい。モーター機能付き発電機のおかげで、アイドリングストップからの復帰が何事もなかったかのように静かに実行されるのもよく、睡眠中の犬もそのまま目を覚まさずに乗っていられるほどだった。
ステアリングフィール(手応え、やや重めの操舵感)もよく、サスペンションも決してヤワではないところも安心感がある。なので、我が家のように犬を同乗させた状態でも、余分な神経を遣うことなくクルマを意図したとおりに走らせられ、予期せぬ挙動にも見舞われない、心地いい走りが実現されている。
広々した室内と使ってうれしい装備
使い勝手、実用性の高さによる使い心地のよさは、もはや説明不要だろう。我が家の普段の足はチンク(フィアット500)だが、室内の広々感を比べたら、チンクはまったく歯が立たない。写真のように後席にペット用のクレートを載せ、その横に家人が座る使い方でも余裕綽々で、しかも床面が低いからスライドドアからの乗り降りは犬も人も楽々行える。
単純操作でスライドが行える後席、夏場でも後席にエアコンの冷風をほどよく回してくれる天井の薄型サーキュレーター、先祖にあたるパレット時代からおなじみのスライドドア部に予め内蔵された巻き取り式のブラインドなど、気の利いた装備も実際に使ってみるとうれしい。アダプティブクルーズコントロール装着車であれば、現在は車線逸脱抑制機能が加わるなどし、ADAS関連の機能も充実している。
気持ちがホッコリとさせられる“キャラ”
今や乗用車の販売台数全体の4割を占める軽自動車。その中でもスーパーハイト系は、いわば“究極の道具”だ。人が快適に移動でき荷物も積め、日常使いに申し分ない実用性を備え、さらにランニングコストも軽い負担で済むなど、魅力とメリットは多い。が、日常使いのクルマだからこそ、使い勝手さえよければそれでOK……では味気ない。
スペーシアギアのような、同じスーパーハイト系でも、使い心地のいい、ちょっと気持ちがホッコリとさせられる“キャラ”の持ち主も見逃せない。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2022年7月時点の情報で制作しています。