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モータースポーツ参戦を意識して投入されたGRヤリスのパフォーマンスをさらに高めたGRMNヤリス。500台の限定モデルは700万円を超えるプライスタグにもかかわらず抽選への応募が殺到しました。そんなスーパーマシンの実力を岡崎五朗さんがサーキットで試しました。
700万円超えだが間違いなく安い!
うぉおお、こりゃスゴい!
サーキットを走りはじめた途端、思わず口に出た言葉だ。コンパクトなボディに272psという高出力エンジンを搭載したモデルだけに当然速い。けれど、冒頭の言葉には、実は加速性能以外の驚きも含まれていたのだ、ということをまずはお伝えしておきたい。
ヤリスの高性能モデルとして登場したGRヤリスは、WRC(世界ラリー選手権)をはじめとする様々なモータースポーツへの参戦を強く意識して発売されたモデルだ。今回試乗したのは、500台限定で発売されたGRMNヤリス。GRヤリスのパフォーマンスをさらに高めたモデルという位置づけだ。
価格は仕様によって異なるものの、GRヤリスのトップモデルであるRZハイパフォーマンスの456万円を大幅に超える731万7,000円〜846万7,000円。決して安くはない。いや、コンパクトカーとしてはちょっと考えられないほどの高さだ。しかし、中身を知るにつれ、安いかも?いや間違いなく安いね、と思わせるのがこいつのスゴさだ。実際、購入希望者は500人を大幅に上回り、抽選で当たったラッキーなユーザーの手元にだけ納車されることになる。
そもそもGRヤリスはレーシングカーレベルの精度の作り込み
GRMNヤリスの衝撃的走行性能に話題を移す前に、まずはGRヤリスについて簡単におさらいしておこう。GRヤリスは普通に街を走っているヤリスとよく似ているし、共用パーツもあるが、ボディは空力性能を追求した2ドアで、エンジンもボディもサスペンションも大幅に強化されている。開発にはプロのレーシングドライバーやラリードライバーが参加。彼らの高い要求に応えるべく、多くの専用パーツが開発された。
また、製造工程もGRヤリスの大きな特徴。愛知県の元町工場に新たに作られた「GRファクトリー」で、職人の手によって一台一台丁寧に、高精度に生産されている。実際に工場を取材で訪れたことがあるが、ある程度の誤差やバラツキが前提の大量生産車とは違い、エンジン部品やボディの組み付けなど、あらゆるところでレーシングカーレベルの精度の作り込みが行われていた。
モータースポーツからのフィードバックを惜しげもなく投入したGRMNヤリス
GRMNヤリスでは、さらにボディ剛性を高めるためスポット溶接を545点、構造用接着剤の使用も12m増やしている。書類を何枚か束ねるとき、糊をどのぐらいの長さで塗るか、あるいはホチキスを3ヵ所で留めるのと5ヵ所で留めるのとではシッカリ感が違ってくるのと同じ理屈で、同じ鉄板を使っていてもスポット溶接や構造用接着剤の使い方によって剛性は変わってくるのである。また、エンジンでは各パーツの精度をより厳しく管理し、ピストンなどは軽いものを選別して組み込んでいるという。
その他、サスペンションやダンパー、空力パーツも専用。さらには、シフトリンケージの剛性も上げている。耐久レースで発生したトラブルを解析した結果、剛性不足が原因であることがわかったからだ。モータースポーツ参戦を前提に開発したGRヤリスに、モータースポーツからのフィードバックを惜しげもなく投入したのがGRMNヤリスなのである。
限界領域でもクルマが手の内にある感覚が強く、安心して踏んでいける
こうした数々の改良がもたらしたのは、卓越したボディの剛性感と、それに支えられた安心感、速さだ。最高出力は272psのままだが、ローギアード化したMTと精度よく吹け上がるエンジン特性の組み合わせは素晴らしい速さとともに気持ちのいい回転フィールを伝えてくる。
コーナーでは鍛え上げられたボディと足がハイグリップタイヤの生みだす強烈なグリップを余裕で受け止め、優れたドライビングプレジャーとラップタイム短縮を実現する。限界領域に持ち込んでもクルマが手の内にある感覚が強く、安心して踏んでいけるのがGRMNヤリスの真骨頂だ。
むしろスイートスポットが拡がっている
ラリー参戦を前提としたラリーパッケージにも同じことがいえる。僕自身、ダート走行の経験はほとんどないが、豪快な砂埃を上げながら、滑りやすい路面を自由自在に走らせることができた。プロ向けのマシンは得てしてスイートスポットが狭くなりがちだが、GRMNヤリスは逆で、むしろスイートスポットが拡がっている。それでいて速さも向上しているあたりに底力を感じた。
(写真:トヨタ自動車)
※記事の内容は2022年6月時点の情報で制作しています。