2022年5月27日にフルモデルチェンジして発売されたホンダのミニバン「ステップワゴン」。これで6代目になりました。新型ステップワゴンは、デザインが異なる2モデル、2種類のエンジンをラインナップ。ベストバイは何なのかを探る比較試乗を実施しました。
新型ステップワゴンの特徴をおさらい
この記事を読まれている多くの方はきっと、新型ステップワゴンについての情報に何らか触れられたことでしょう。新型ステップワゴンの特徴をおさらいします。
「エアー」と「スパーダ」の2モデル体制
先代ステップワゴンは、無印の標準モデルと「SPADA(スパーダ)」の2モデル体制でした。新型ステップワゴンは、ラグジュアリー志向のスパーダは先代のコンセプトをそのまま継承し、無印標準モデルを廃止して「Air(エアー)」をラインナップさせました。
デザインの特徴は、エアー・スパーダ両モデルともにナチュラルテイスト。ホンダは、ナチュラルなデザインのミニバンも需要があったと伝えていました。最大のライバルで、ステップワゴンより一足先にフルモデルチェンジしたトヨタ ノア・ヴォクシーは、世界中の車の中で最もフロントグリルの専有面積が広いのではないかと言わしめるほどの迫力ある「オラオラ系」のデザインで世間をあっと言わせました。
新型ステップワゴンはその真逆の路線です。
ガソリンとハイブリッド「e:HEV」の2種類のエンジンをラインナップ
新型ステップワゴンは、先代ステップワゴンのパワートレインをキャリーオーバーしていますので、大きな変更はありませんが、しっかりと進化・深化させています。
ガソリン車は、1.5L直噴ターボで最高出力150ps(110kW)/5,500rpm、最大トルク203N・m/1,600~5,000rpmで先代と新型は同じスペックです。エンジン形式は先代が「L15B」、新型が「L15C」になっています。
ハイブリッド「e:HEV(イー・エイチイーブイ)」も先代・新型は“基本的に”同様のスペックで、エンジンの最高出力は145ps(107kW)/6,200rpm、最大トルクは175N・m/3,500rpm(先代は4,000rpm)、モーターの最高出力は184PS(135kW)/5,000~6,000rpm、最大トルクは315N・m/0~2,000rpmとなっています。
燃費は、ガソリン FF(前輪駆動)では先代の13.6km/L→13.2~13.9km/Lと一部グレードで若干向上、4WDでは先代の13.0km/L→13.1~13.3km/Lと若干向上、、ハイブリッドが先代の20.0km/L(FFのみ)→19.5~20.0km/Lとなっています。この燃費はWLTCモードですので、実燃費では新型のほうが良くなる可能性があります。
4WDはガソリン車のみに設定
先代同様、ハイブリッドe:HEVは、FF(前輪駆動)のみの設定となり、4WD(フルタイム式)は、ガソリン車のみの設定となります。
これは、ハイブリッドシステムの構造上、しかたのないことですね……。
新型ステップワゴンの走りはどうよ?
結論から申し上げましょう。
- 足回りがよくなり、先代に気になっていた上屋の横揺れが減り、コーナリングの安定性、乗り心地が良くなった。
- スペックは変わっていないが、パワートレインのチューニングで、気持ちよく走れるようになった。
この2点は、ガソリン車・ハイブリッド車の両方に共通しています。
試乗してすぐに体感したのが、上屋(キャビン部分)の横揺れが少なくなったことでした。例えば駐車場から道路に出るときの高低差を通過したときの横揺れ、首都高速など半径の小さいカーブを連続して走るときの安定性は如実に良くなっていました。
ガソリン車のCVTは、滑り感が軽減されダイレクト感あるフィーリングに進化したと感じました。
e:HEVは、先代でも走りの良さに定評がありましたが、新型はさらに磨きをかけてきた印象がありました。足回りの良さも加わって、加速フィーリングは素晴らしい。e:HEVは、トヨタの「THS II」ハイブリッドと異なり、エンジンを発電機としてモーターで駆動する領域が広く取られているため、モーターの強みである低回転域のトルクの太さを存分に引き出せます。
室内も感心する作りになっていた!
ホンダの新型フィット、新型ヴェゼル、新型シビックに共通する、リビングにいるような快適さを目指した空間作りは、新型ステップワゴンでもしっかり。
直線基調のシンプルでクリーンな室内は明るく、リビングルームのような安心感を演出。視界が広く取られたウィンドウで、大人数乗車の移動はさらに楽しくなること請け合いです。
細かいところでは、新型シビックに採用された、エアコンの吹出口にメッシュで加飾し、ルーバーを見せなくするデザインや、エアコンの調節ダイヤルにクリックを付けて、直感的な操作を可能にしたことなどが挙げられます。
筆者が感動したのは、3列目シートの扱いがしやすいこと!床下格納式3列目シートは、ホンダのお家芸とも言えますが、新型ステップワゴンは、片手でスルスル・カチャンと床下格納ができ、シートを戻すときも操作感が非常に軽くてびっくりしました。赤ちゃんを抱っこしてても、格納・展開ができるのでは?と思ったほどです。読者の方で試乗される機会があったら、ぜひ3列目シートの操作を体感してみてください。
【新型ステップワゴンの選び方】ベストバイは?
新型ステップワゴンのグレード構成はシンプルです。グレードという概念でなく、デザインの形状の違いと、パワートレインの違いのみで基本構成され、スパーダには豪華装備の最上級モデル「SPADA Premium LINE」が設定されています。
このため、一番安いモデルを買っても、装備がさみしい、上級グレードと比べられたら……といった不安もありません。エアーとスパーダを比較すれば、スパーダが上級となりますが、そこにヒエラルキーがある印象もありません。
ここからは、筆者が比較試乗した経験を元に、カーライフスタイル別のベストバイを提案します。
あまり長距離は乗らない。日常生活の足として乗るならエアーのガソリン
エアーのガソリン車、FFの新車価格は、299万8,600円。最安価モデルとなりますが、前述したように、装備が簡略化されたさみしいグレードではありません。
日常生活の足として乗るなら、ガソリン車で十分。もちろん、e:HEVに比べたらガソリン車のパワーの小ささは気になりますが、実用には問題ありません。
車両価格の差は、エアーとスパーダの間では約26万円(ガソリン車)、エアーとエアーe:HEVの間では約38万円あります。この価格差を考慮すると、300万円を切るエアー ガソリン車(FF)はとても魅力的です。
エアー ガソリン車 4WDを選択した場合は、プラス約24万円となります。
大人数乗車が多い・山岳地帯に住んでいるなら、e:HEV
大人数乗車が多くなる方、山岳地帯にお住まいの方であれば、e:HEVがおすすめです。筆者の比較試乗では、大人数乗車の運転はできなかったのですが、重たくなるとガソリン車ではパワー不足感が出てくることが予想されました。
ガソリン車での1人乗車のときのフル加速では、ターボが効く3,000回転までにもたつき感がありました。ミニバンではそうそうフル加速はしないと思いますが、大人数乗車時や上り坂では、もう少し余裕が欲しくなると思います。
ガソリン車とe:HEVの価格差は、エアー・スパーダ・スパーダ プレミアムラインともに約38万円となっています。
スパーダにプラス20万の「プレミアムライン」の主要装備は何?ベストバイか?
エアーより上級のスパーダに、さらに約20万を足すと「プレミアムライン」となります。プレミアムラインの主要装備は、次のとおり。
- プラチナクローム調メッキ加飾
- スエード調表皮&プライススムース(合皮)コンビシート
- アクティブドライビングビーム
- マルチビューカメラシステム
- 2列目シートヒーター
- プレミアムライン専用デザイン17インチアルミホイール(FFのみ)
この6点が主要装備になります。これだけあって20万円なら、お買い得といえるでしょう。リセールバリューも高くなりそう(回収できるまでのバリューがあるとは言い難いですが)、スパーダのデザインと上級志向の室内空間が好みの方は、プラス20万円出して、プレミアムラインを選んだほうが幸せになるでしょう。
筆者的ベストバイは「エアー e:HEV」
2022年6月27日にホンダは発表した、新型ステップワゴンの受注状況では、発売から約1ヶ月で約27,000台と好調なセールスでした。
販売構成比では、e:HEVが67%、スパーダが85%で、このうち「スパーダ e:HEV」が35%が一番人気となっていました。
人気だけで見れば、スパーダですが、個人的にはエアーのクリーンでナチュラルなデザインが好み。e:HEVの余裕ある走り、加速の良さを体感してしまうと、ガソリン車では物足りなくなってしまったのが正直な感想。よって、「エアー e:HEV」を筆者的ベストバイとしました。
(撮影・文:宇野 智)
※この記事は2022年6月時点の情報で制作しています。