軽自動車のSUVとして大ヒットとなったスズキハスラー、そしてそれに待ったをかけるべく投入されたダイハツタフト。販売台数も抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げています。果たしてこのライバル2台、おすすめなのはどちらなのでしょう。萩原文博さんの比較試乗レポートをお届けします。
9月はハスラー、10月はタフトの勝ち。激しく争うライバル
国産車だけでなく、輸入車でもSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)ブームの勢いは留まるところをしりません。スーパーカーメーカーのランボルギーニが「ウルス」、イギリスの高級車ブランドロールスロイスからは「カリナン」が登場。国産車では国産セダンの代名詞であるトヨタクラウンが次期モデルはSUVに替わるとも言われています。
このトレンドは軽自動車にも波及しています。本格オフローダーであるスズキジムニーの新車は納車まで1年待ちと言われていますし、スズキハスラーとダイハツタフトも新車販売台数ランキング上位にランクインしています。そこで、ここでは軽SUVのベストセラーモデルと言えるスズキハスラーとダイハツタフトを徹底比較してみましょう。
新車販売台数を見ると、ハスラーの2020年9月が7757台で7位、タフトが6873台で10位。そして2020年10月はタフトが7471台の5位、ハスラーは7位の6536台とデッドヒートを毎月繰り広げているライバル車です。まずは、それぞれの車種を紹介します。
2代目ハスラーの注目ポイントは広さではなく、お金のかかったボディにある!
現行型ハスラーは、2019年12月に発表され、2020年1月20日より販売開始しました。先代モデルは、ハイトワゴンのワゴンRをベースとしていましたが、現行型ハスラーは現ジアの軽自動車の主流であるスーパーハイトワゴンのスペーシアをベースとしており、室内空間が拡大したのが特徴です。
ハスラーの骨格には新世代プラットフォーム「ハーテクト」が採用され、さらにバックドア、センターピラー、サイドドアそれぞれ「環状骨格構造」を形成することによりボディ全体で剛性を高めています。その上、ボディのスポット溶接部分に「構造用接着材」を採用し、部品間のわずかな隙間を埋めることで接合部を強化しています。この高価な構造用接着材を使用した結果、ボディ全体の剛性が向上し、スッキリとした操縦安定性とフラットな乗り心地を実現しています。
搭載するエンジンですがターボエンジンは従来モデルと変わりませんが、自然吸気エンジンは新開発。エンジンの燃焼効率を高めて、燃費も走りも向上させています。組み合わされるミッションは新開発の軽量化と高効率化を両立したCVTを採用。低中速域でのスムーズな走りと高速域での燃費性能と静粛性を実現しています。
依然、他社をリードするスズキのマイルドハイブリッド
そしてハスラーのアドバンテージはISGと呼ばれるモーター機能付発電機とリチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを搭載し、加速時のアシストや燃費向上に活用している点です。
最新モデルらしく運転支援システムも充実。夜間の歩行者も検知するステレオカメラ方式の衝突被害軽減ブレーク「デュアルカメラサポート」をはじめ、ターボ車には全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロールと車線逸脱抑制機能を搭載し、高速道路での追従走行も可能、ドライバーの負担を軽減しています。スズキはワゴンR、スペーシアそしてこのハスラーが軽自動車の3本柱というほどだけあって、気合いを入れて開発されています。
タフトもボディ剛性に自信あり!
一方のタフトは2020年6月に登場しました。ダイハツにはキャストアクティバという軽SUVがありましたが、わずかひと世代で生産終了となりました。そのキャストアクティバの穴を埋めるために登場したのがタフトです。
タフトはダイハツの新世代のクルマづくり「DNGA」を採用した第3弾のモデルで右肩上がりの人気を誇る軽SUV市場に投入されました。2019年に登場したタントに続いて、新プラットフォームと進化した軽量高剛性ボディ「Dモノコック」を採用したことで、車両剛性を向上させています。
タフトのターボ車にはCVTはより幅広い制御が可能なD-CVTが
搭載するエンジンは燃焼効率を高めた直列3気筒自然吸気とターボ、組み合わされるミッションは全車CVTですが、ターボ車にはより幅広く効率的な制御を行うD-CVTを組み合わせることで気持ち良い加速フィールを実現しています。
運転支援システムは約3年振りに一新したステレオカメラのスマートアシストを搭載。撮像性能を向上させることで夜間歩行者の検知を可能としたうえ、衝突回避ブレーキの対応速度引き上げなど進化を遂げています。さらに全車速追従機能付きACCをターボ車に設定するなど利便性も向上しています。
燃費には絶対の自信を誇るハスラー、電動パーキングブレーキと大きなサンルーフが自慢のタフト
このようにスペックや装備などは拮抗していますが、燃費性能を見るとWTLCモードでハスラーは20.8~25.0km/L。一方のタフトは19.6~20.5km/Lとマイルドハイブリッドシステムを搭載したハスラーが上回っています。
一方、パーキングブレーキはハスラーが従来の足踏み式に対して、タフトは電動パーキングシステムを搭載するなど利便性という部分ではタフトがリードしています。装備面ではタフトは、開放感一杯のスカイルーフトップを標準装備するなどそれぞれ特徴があります。
リアシートの使い勝手はハスラーの圧勝
さらに細かく見てみると、荷室は両モデルともに、汚れを簡単に拭き取れる工夫がほどこされていますが、ハスラーのリアシートは左右分割してリクライニングするだけでなく、スライドも可能で多彩なシートアレンジが可能。加えてリクライニングやスライドはレバー操作でラクラクできます。
一方のタフトはリクライニングが左右分割式ですが、スライドは一体式となっています。さらにリクライニング操作は簡易的なヒンジを倒すというもので、ユーティリティ面ではハスラーのほうがリードしています。
ハスラーの走りは軽自動車ナンバー1かもしれない
ハスラーとタフトでの最大の違いはオンロードでの走行性能でしょう。広い室内空間を確保するための背の高いボディ、使い勝手を重視して大きな開口部を採用したラゲージスペースなど走行性能には悪い影響を与える要素が数々ある両車。
しかし、ハスラーは高剛性ボディ、さらに高額で小型車でも滅多に採用しない「構造用接着材」を使用することで、走行性能に悪影響を与える要素をシャットアウト。軽自動車ではトップと言えるリアの走行安定性を獲得し、カーブを曲がる際に発生するボディのねじれを抑え、高い走行安定性とフラットな乗り味を実現しています。
タフトも軽自動車としては十分及第点を与えられるレベルとなっていますが、リアの安定性やコーナリング時のクルマの傾きやねじれはハスラーとはかなり差があります。正直言ってハスラーは現在の軽自動車でNo.1の走行性能を実現していると言っても言いすぎではありません。それほど気合いを入れて開発されていることが運転すると伝わってきます。その差は試乗に訪れたディーラーで店舗から道路に出るときの段差を乗り越えた時の揺れの収まりの違いでもわかると思います。
見えない部分までこだわりを詰め込んだハスラーの勝ち!
ハスラーの丸目のヘッドライトはキュートな顔付きのためだけに採用したのではなく、ボンネットに凹凸をつけることで、ドライバーが車幅感覚を掴みやすくなることも意識しています。デザインと機能性を両立した、よく考えられたデザインなのです。ボディカラーをアクセントカラーに採用したインテリアなどにも遊び心を感じます。さすがヒット車の2代目です。
新車価格はタフトが135万3000円~173万2500円。対してハスラーは136万5100円~174万6800円と、わずかに先に販売開始したハスラーのほうが高くなっています。しかし見える部分だけでなく、見えない部分にまでこだわったシャシーのスムーズな加速と低燃費を両立したマイルドハイブリッドシステムなどを考えれば、この価格差はないどころか、バリューは圧倒的にハスラーのほうが高いと言えるでしょう。販売台数こそ拮抗していますが、その実力はハスラーの圧倒的勝利です。
※記事の内容は2020年12月時点の情報で制作しています。